今日はすごく天気のいい日曜日。
どこかにネタは落ちてないものかと街へと繰りだした。
勿論、トレードマークの赤いメガネは忘れずに。



4.5



角を曲がると、ショーウィンドーをじっと見つめる彼が居た。
相変わらずの白い肌に目立つ赤い髪。整った顔立ちは行きかう女性たちが一瞥してしまうほどだ。
これはおもしろいネタを発見した、と音無春奈はスキップで彼に近づいた。

「基山さん!」

そう呼ぶと、彼は振り返った。彼は一瞬驚いた顔を見せた後、「やあ、久しぶりだね」とにっこりと微笑んでみせた。
かつてイナズマジャパンとして共に世界の頂点を目指した基山ヒロトを街のメインストリートで発見出来たのは幸運だった。

「お久しぶりです!今日はサッカー部の練習はお休みですか?」
「そうなんだよ。音無さんは買い物?」
「まあ、そんなとこです!ところで、基山さん、お一人ですか?」

彼の周りをきょろきょろと見渡すけれど、付き添いの人は居ないようだ。

「うん、今日は一人かな」
「そうなんですね!ところで何を真剣に見られてたんですか?」

そう言いながら、春奈はヒロトが見つめていたショーウィンドーを覗き込む。
そこにはキラキラ光るアクセサリーが可愛らしくレイアウトされ、ずらりと並んでいた。

「うわあ!可愛い!」
「指輪を探してるんだけど、どこのが良いかとかわからなくて」
「それはもしかしてもしかしなくとも、彼女さんにですか?!」

少し興奮気味に彼に問うと、少し頬を赤らめて「そうなんだ」と笑った。男の人には失礼かもしれないけれど、なんだか可愛いと思ってしまった。そんな風に、幸せそうに笑われたら誰だってそう思うだろう。

「基山さんの彼女さんって八神玲名さんですよね?」
「え、良く知ってるね」
「ふふー私の情報網は甘くないんですよー!」
「流石だなあ」
「ところで、値段も手頃でデザインも可愛いお店知ってるんですけど、案内しましょうか?」
「本当?助かるよ」
「こっちです!」

案内をしながら、馴れ初めを尋ねたり、どんな指輪が似合うのかを考えたり、会話は弾む。聞きながら、基山さんは本当に八神玲名さんが好きなんだと言うことがひしひしと伝わって来た。
次の角を曲がったところですよ、と言った時だった。彼はピタリと立ち止まり後ろを振り返った。彼の視線の先は行きかう車とその向こうの歩道だった。

「どうか、されましたか?」
「・・・いや、気のせいだと、思う」
「?」
「ごめん、気にしないで。えっと次の角だっけ」
「はい!」

再度歩き始めた二人だったが、春奈はチラリと後ろを振り返った。ざわりと風が舞う。しかし特に変わった様子は無い。

「素敵な指輪が見つかると良いですね!」
「うん」

二人は笑い会いながら、人混みの中を歩いていった。



彼が選んだのは、シンプルで細身だけど綺麗な模様が刻まれている銀色の指輪だった。

(私もいつか、好きな人から貰えると良いなあ)

夜空を見上げながら、思う。キラキラと光る星が昼間に見たアクセサリーのようだ。
その時、キラリ、と流れ星が流れた。
とても美しいそれは、その時はなぜか、誰かの涙がぽろりと落ちたような、不思議とそんな気がした。



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