玲名から「ヒロトと付き合うようになった」と聞かされた時は、危うく手に持っていたマグカップを落としそうになった。思わず「それ、意味分かってるの?」と聞き返してしまった。それほどの衝撃だったのだ。



1.5



お風呂上がりのケアは欠かさない。それが紀伊布美子の美しさの秘訣だからだ。
化粧水、乳液、最後に顔パックをし終え、さて寝ようかと布団に入ろうとしたその時だった。携帯から着信音が鳴った。見ると、基山ヒロトからだった。

「もしもし」
『ごめん、布美子。こんな時間に』
「良いけど。どうしたの?」
『ちょっとお願いがあるんだけど・・・あ、近くに玲名いる?』
「居ないわよ」

珍しく電話があったかと思ったら、やはり玲名絡みのことか。布美子は苦笑する。
一時期は犬猿の仲だったあの二人が今ではこんな状態だ。まあ、あれは玲名の方が一方的に毛嫌いしていただけだったのだが。その後も二人の関係はなんとなくギクシャクしていた。それは近くで二人を見ていた布美子が良く知っている。
だからこそ今の二人が恋人同士としていることがとても嬉しく思えた。

「それで?」
『あのさ、玲名の指のサイズ、わかる?』
「指のサイズ?さあ、わからないけど・・・なに、プレゼント?」
『うん。今度の誕生日に指輪を渡そうかと思って』
「ふーん、なるほどね。わかった。明日にでもさりげなく見てみるわ。勿論、薬指で良いのよね?」
『うん、薬指。布美子、ありがとう』

明日また連絡するわ、そう言って電話を切った。

それから二週間ほどがたった頃だ。玲名の様子がおかしいことに気付いた。それは身近にいる人間にしかわからない小さな変化であっただろう。しかし布美子にはそれだけで十分だった。ヒロト、という単語を聞いた時、わずかに表情が曇ったのだ。だから、鎌を掛けてみた。

「やっぱり、ヒロトと何かあったんでしょう」と。

やはり表情が変わった。観念した彼女がぽつり、ぽつりと話し始めた内容は、信じられないことばかりだった。そして、玲名がそんなにも深刻に悩んでいることにも驚いた。

「ねえ。それ、ヒロトに直接聞いてみたらどう?ずっとこのままなんて玲名がつらいだけよ」

彼は彼女に指輪を贈るのだと、そう言っていた。つい2週間前のことだ。
直接聞けば、それが全て誤解なのだと気づくはず。私が余計な手回しをせずとも直ぐに解決するするはずだ。
とは思ったが玲名が帰った後、念のためヒロトに電話を掛けたのだがあいにく通話中だった。

(玲名、かしら)

そうだと良い。
早く誤解を解いてあげて。大丈夫よね。二人なら大丈夫よね。
そんなことを考えながら、ふと時計を見ると既にいつもの就寝時間を過ぎていた。

「夜更かしは美容の大敵なのに・・・!」

二人の事も気になるが、よくよく考えればヒロトも玲名もお互いの事が好きということには変わりは無いのだから特に問題は無いような気がしてきた。

(結局のところ、のろけられたのかしら)

そんなことを思いながら、布美子は眠りに就いた。









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