いつも傍にいることは出来ないから。 だからせめて、彼女が俺のものなんだって、見せつけてやりたいって思うのは俺のエゴなのかな。 00 サッカー部での練習が終わり、寮へと戻ってきた。今日の練習もなかなかハードだった。 ポスン、とベッドに倒れ込む。今にも瞼は閉じてしまいそうだ。すると視界の端でチカチカと携帯電話が光ってることに気づいた。 (玲名、かな) 精一杯手を伸ばし携帯電話を掴む。見ると差出人は南雲晴矢だった。 「何だろう。珍しいな」 彼から連絡がくるのは本当に稀だ。受信ボックスを開くとそこにはこう書かれていた。 差出人:南雲晴矢 件名:RE: 本文:今日も玲名が男に呼び出しくらってたぞ。ざまあ(笑) 「・・・・・・」 基本的に温厚な性格だと自分では思ったけれど、その時ばかりは携帯電話をへし折りたくなった。 電源ボタンを連打して、すぐに発信履歴から玲名の名前を探し出す。 先ほどの眠気もぶっ飛んだ。通話ボタンを押すと呼び出し音が一度、二度と鳴っていく。十四回目の後、コールが途切れた。 『何だ』 「玲名!ねえ、今日、呼び出された?」 『は?』 「だからさ、男に呼び出されて告白されなかった?!」 『あぁ、そんなこともあったな・・・何故お前が知ってるんだ』 「断ったよね?勿論、断ったよね?」 『・・・そんなことを聞くために電話を寄越したのか』 「俺がいるんだから、断ったよね?!ね、断ったよね?!」 『っしつこい!断っている!これで満足か?!もう切るぞ!』 「えっちょっと、」 待って、というよりも早くぶつりと回線は切れた。 ヒロトは盛大な溜め息をついた。彼女を怒らせたことに対してではなく、彼女がまた告白を受けたことに対してだ。今月に入り自分が知る限りでも三度目だった。高校に入ってからの回数は数えることも馬鹿らしい。 (どうしたら良いんだろう) いつからか、なんて覚えてはいないけど、玲名が好きだった。 でも彼女が自分を嫌っているのだろうということは明白で、特にエイリアの時なんかは最悪だった。そんな時期も乗り越え、やっと前のように家族のような関係に戻れ、ほっとしている矢先のことだった。高校生になると彼女は急に愛の告白を受けるようになった。 全て断っているとは聞いたが正直焦った。 なぜなら自分は彼女と違う高校で、しかも寮生活で。もしかしたら自分の知らないうちに彼女に恋人が出来てしまうのではないかという不安を抱いた。 けれど、今の関係を壊したくないなど悩むうちに気づけば三年生になっていた。 きっかけは何だっただろう。 俺は彼女に「好きだ」と告げた。その時の驚いた玲名の顔を今でも忘れられない。 俺はというと珍しく緊張していて、耳まで赤くなっているのだろうと自分でも気付いた。そんな俺をじっと見つめた後、玲名はクスクスと笑い「そうか」と言った。 そして、「私も好きなんだと思う、お前の事が」という返事をくれたのだ。 嬉しくて、嬉しくて、幸せだった。 けれど恋人同士になった後も彼女は何度も告白を受けていた。 彼女は俺を好きだと言ってくれた。あの生真面目な彼女が嘘を言うわけがない。 だから大丈夫だ、と思えば思えば不安は増す。 (どうすれば、彼女には俺が居るんだって示すことが出来るんだろう) ゴロリと寝返りを打つと、カレンダーが視界に入った。 練習の予定や学校行事などがびっしりと書かれたカレンダーだ。 (そう言えば、来月は玲名の誕生日だ) その瞬間、名案が浮かんだ。 「そうだ!誕生日に指輪を渡そう!」 彼女の白い指先にあう、指輪を渡そう。 それを彼女が身につけていたら、彼女には俺が、恋人が居るんだってみんなが気づくはずだ。 そのためには、そうだ。バイトをしようかな。テスト期間はちょうどずれているし、練習との掛け持ちは今以上にきついだろうけどたったの一カ月だし、それに玲名のためだ。きっと頑張れる。 そこまで思考を巡らせるととろりと睡魔が訪れ、そのままヒロトは夢の中へと落ちていった。 その後、ヒロトは玲名への連絡が疎かになっていく。 彼女との間に少しずつ、でも確実に、大きな溝が出来ていく。 笑顔でいてほしいと願う彼女の涙を見ることとなる。 それはまた、別のお話。 |