甘い香りと可愛い悪戯と。
ハローウィンの始まりだよ。


Trick and Treat!



「はあ、疲れた」

ふうと息を吐きながら、ヒロトは黒いツルツルとしたサテン生地で作られたマントをぱさりとベッドへと放り投げた。
10月31日はハローウィン。クリスマス会と並ぶほどではないがお日さま園でも子どもたちが楽しみにしているイベントだった。お菓子を子どもたちに配るのは大人の仕事。そのため毎年、仮装が義務付けられていた。
今年は吸血鬼ということで、このマントが手渡されたわけだ。いつもと違う風貌のヒロトに子どもたちは興味津々と言った様子でもみくちゃにされ、なかなかの重労働だった。

「来年は裏方に回りたい・・・」

そう呟くのと同時にコンコン、と扉がノックされた。

「どうぞ」
「入るぞ」

ガチャリと扉が開くと、玲名がひょこりと顔を覗かせる。その手にはパーティーの時に机の上を彩っていたパンプキン色のケーキと真っ黒なコーヒーがあった。

「お疲れ様。これ、お前の分を取っておいたんだが・・・食べるか?」
「せっかくだから食べようかな。わざわざありがとう」

にこりと笑うと玲名は静かに扉を閉める。そして手際よくローテーブルにケーキとコーヒーを並べた。ケーキの上にはたっぷりの生クリームがのっており見るからに甘そうだ。

「玲名も食べる?」
「いや、私は良い。作る時に味見をしたんだ」

そう言う玲名は今年、お菓子作りの担当でありいつも通りのエプロン姿だった。
ヒロトはケーキにフォークを入れ一口大に切る。クリームがふわふわと揺れた。

「どうして今年は仮装しなかったの?」
「・・・去年、魔女をして文句を言ったのはお前だろ」
「いや、だってあの衣装は露出がさ・・・」

去年の彼女の姿を鮮明に思い出しながらぱくりとケーキを頬張る。

「少しスカートが短かっただけじゃないか」
「だからそれが駄目」
「・・・めんどくさい奴だな」
「恋人の心配をしてるだけなのになあ」

言葉通り、恋人である彼女は言葉通り、面倒くさそうに溜め息をついた。
そこでふと、悪戯を思いつく。少し彼女を困らせてやろうと指で甘い甘いクリームをたっぷり掬い上げた。

「ヒロト?」

不思議そうに顔を傾げる玲名のその唇にべったりと塗りつける。

「ちょっ!んっ何する、」
「甘そうだね。食べても良い?」

彼女の言葉も待たずにその甘そうな唇にヒロトは舌を這わせた。玲名はビクンと身体を強張らせぎゅっと目を瞑る。その頬は微かに赤く染まっていた。

「Trick or Treat?」
「orじゃなくてandだろ、お前」
「それもそうだね」

クスクスと笑いながら彼女の耳元でそっと囁く。

「Trick and Treat」

ヒロトが頬に唇を落とすと、ふわりと甘い香りが鼻孔をくすぐった。ぎゅっと眉根を寄せていた玲名も観念したようにゆっくりと目蓋を閉じる。
ヒロトはクリームよりも更に甘い彼女を味わうためにぺロリと唇を舐めた。





(Trick and Treat!)
君の全部を僕に頂戴





※はっぴーはろうぃーん!ってなわけでこの後玲名はおいしく頂かれました。

11.10.31



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