※「ハローハロー、マイスウィート」に関連する小話



:)From*Ryu-ji

「うわーどうしよう・・・」

緑川リュウジは頭を抱えながらおひさま園の倉庫と化している一室でアルバムを広げていた。

「写真、なんて、無理だよ・・・」

ヒロトに「また手紙出すから何か他に送って欲しいものある?」と聞くと、写真と答えが返って来た。日本の風景写真などでは無い。ヒロトの想い人、八神玲名の写真をお願いされたのだ。
リュウジの記憶が正しければ彼女は酷く写真に写るのを嫌い、そのため彼女がきちんと映った写真は皆無だったように思う。
パラパラとアルバムのページを捲る。エイリアの時代より前の幼い頃の玲名の写真ならば見つけることが出来たが今現在の彼女の写真はやはり無い。

「・・・本人に直接頼むしか・・・いやいや、ヒロトが欲しがってるなんて聞いたら鳥肌でも立てて拒絶するよ。ああ、写メでパシャリと・・・嫌だヒロトのために死にたくない」

「なにブツブツ言ってるの」

急に背後から声を掛けられびくりと肩が跳ねる。振り返ると布美子が入り口に立っていた。

「驚かさないでよ、布美子」
「別に驚かすつもりは無かったけど・・・あら、懐かしい!」
「ちょっと写真を探してたんだ」

そこで名案が浮かんだ。布美子は玲名のチームメイトであり親友だ。彼女の写真の一枚くらいは持っているかもしれない。

「あのさ、玲名の写真、持ってる?」
「玲名の・・・?何、あんた玲名の写真が欲しいの?」
「違うよ!俺じゃないよ!」
「・・・ああ、ヒロト?」

おいヒロト、バレバレだぞと心の中で呆れる。
布美子はそうねえと言いながら考えていたがやはり玲名の写真は手元には無いという事だった。

「女子ってプリクラとか撮ってるじゃん」
「そりゃあ撮るけど、玲名は絶対に嫌がるから玲名とのプリクラは無いわね」
「写メも?」
「あるけど後ろ姿とかだもんねえ・・・よし、今から撮りに行くわよ!」
「え?え?ちょっと布美子!!」

グイッと腕を掴まれそのまま布美子にズルズルと引きずられながら玲名の部屋の前まで来てしまった。布美子は迷うことなくトントンと扉をノックをする。

「玲名ーいるー?」
「何だ」

がちゃ、と扉が開くと玲名がいつもの無表情で顔を見せた。
布美子は「リュウジはそこに待ってて」と言うと彼女の部屋にぐいぐいと入って行って再度、扉を閉めてしまった。リュウジは何が起こったのか良く分からず廊下にぽつんと一人取り残された。
それから五分ほど立った頃だろうか。玲名の部屋からバタンバタンという騒音が聞こえたかと思うと扉が勢いよく開いた。

「おい!布美子!消せ!今すぐそれを消せ!」
「うふふダメよー」

布美子の手にはいつの間にかデジカメが握られている。リュウジは何が何だか直ぐには理解が出来なかったが察するに布美子は玲名の写真を撮ったのだろう。

「大丈夫よー写真だけじゃ分からないじゃない?」
「その写真を見る度に思い出すなんて最悪だ!早くそれを渡せ!」
「あらー?この前の事を本人に言っちゃうわよー」
「・・・っ!卑怯だぞ!」

布美子がニヤニヤと笑っている。そして玲名が悔しそうにデジカメを取ろうとする手を止めた。

「大丈夫よ、あとでちゃんと消すから」
「本当か」
「本当よー。じゃあ行きましょ、リュウジ」

急に自分の名前が呼ばれ、ドキンと心臓が跳ねた。玲名からジロリと睨まれ心拍数が上がっていく。その場を立ち去る時も後ろから凄い視線を感じリビングに入る頃にはドッドッドッと心臓が鳴っていた。

「大成功ね」
「俺は生きた心地がしなかったよ・・・」
「ほら、でもばっちりでしょ?」

そう言われ、デジカメの画面を覗くとそこには少し恥ずかしそうにはにかむ玲名の姿があった。つい先ほどの凄い形相で睨んでいた玲名と同一人物だとは思えない。

「どうやって撮ったの?」
「魔法の呪文を使ったの」
「呪文?何それ」
「うふふ、秘密よ」
「さっき言ってた"この前の事を本人に言う"ってやつ?」
「そうねえ、まあ関係はしてるけど。はい、じゃあこれ現像したらちゃんと消しておいてね」

布美子はにっこりと微笑みながら、デジカメをリュウジに手渡した。

「女子って良くわからないなあ」

無事に現像した後、言われた通りきちんと消去ボタンを押した。
写真はそっと封筒の中に仕舞う。
それを手に、リュウジもまたサッカーの練習へと出かけて行った。


(ハローハロー、マイフレンド。俺だって負けないよ)





:)From*Reina

がちゃん、と電話を切った後、八神玲名は大きな溜め息をついた。
今日もやってしまった。
彼に散々ダメ出しをし、文句を言い、まあ人が聞けば貶しているとしか捉えられないような言葉を吐いた。

(違うんだ、ほんとは、)

伝えたい言葉は単純な一言なのだが、その言葉がいざとなったら出てこない。馬鹿みたいに海の遠い向こう側から何度も電話を掛けてくる彼に言いたい言葉はたった一言なのに。

(が、ん、ば、れ)

玲名はその単語を何度も頭の中で唱える。

「次は言えるように頑張ろう・・・」

ふと窓の外を見るとどこまでも青空が広がっていた。
けれどあちらは今、夜らしい。星空がとても綺麗だと前に言っていた。
同じ地球に生きているのに過ごす時間が違う事に玲名は少しだけ胸が切なくなった。


(ハローハローマイ    。良い、夢を)





※リュウジと布美子はヒロ玲のキューピッドだと良い
※空白には夢と希望と妄想をあてはめてください
11.07.07



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