リビングでテレビを囲み、固唾を飲んで見守る。
試合終了の合図まであと少し。



豪速球はストレート



ピッピ――――――!
試合終了のホイッスルが鳴った。

「勝ったあああああ!!」

ここ、おひさま園のリビングに歓喜の声が響いた。
画面の中からも興奮する実況解説者の声と客席からの大きな歓声が聞こえる。

「あ、ヒロト!」

誰かがそう言うと皆の視線はまたテレビへと戻った。
画面上には見慣れた赤髪の彼がチームメイトと抱擁しあっているところだった。
ヒロトがプロ入りし、スターティングメンバーに選ばれた世界大会の決勝試合は生中継された。
ゲームは前半1−1で終了し、迎えた後半戦。お互い一歩も譲らぬ攻防でロスタイムを迎えた。そしてゲーム終了まじかのその時にヒロトが華麗な天空落としを決めて見せたのだ。

「あ、ヒーローインタビュー、ヒロトなんじゃない?!」

最後の最後、勝利を引き寄せたヒロトにリポーターがマイクを向けている。

『見事なシュートでしたね、基山さん!』
『ありがとうございます!』

リポーターも興奮しているようだ。試合前に現地での様子を、とリポートしている時にセットされていた髪が今ではすっかり乱れている。

『何か一言、日本に向けてどうぞ!』

テレビカメラが更にヒロトに近づいた。
ヒーローの言葉を今か今かと日本中のファンが見守っている。
芸能人顔負けのその笑顔で、彼はテレビカメラに向かって大声で叫んだ。

『結婚しよう!!玲名!!!』

時間が、止まったようだった。
しかし次の瞬間、客席から再度大きな歓声と囃し立てるような口笛が響き渡った。テレビの中ではヘラリと笑う彼。更に興奮するリポーター。勿論質問攻めだ。
それは、このおひさま園でも同じだった。

「れ、玲名!ちょっと!今の!聞いた?!」
「え、お前ら付き合ってたの?」
「凄い!今のプロポーズじゃない?!」

凄い、良かったね、など周りが騒ぐ中、囲まれる当の本人は顔を下に向けてわなわなと震えていた。驚きと感動で泣いてるのかな、とリュウジはそっと顔を覗き込む。
しかし、それとは裏腹に。

「・・・あい、つ・・・」

玲名の今の表情を表わすなら、怒り、だった。
思わずリュウジは身を引いた。

「帰ってきたら、血祭りにしてやる」

もしもここにサッカーボールがあれば、きっと彼女はメテオシャワーかアストロブレイクかスペースペンギンか、ともかく目の前にあるテレビは二度と使い物にならなくなっていたかもしれない。
彼女と打って変わって、テレビの中の彼は相変わらずにこにこと笑っていた。

「あーヒロト、ご愁傷様」

その場に居た誰もが思ったことだろう。

次の日。
どのチャンネルもサッカーのことで盛り上がっていた。それと同時に、ヒロトの例のシーンもまた何度も話題に取り上げられた。・・・らしいのだが、おひさま園のリビングにあるテレビからその情報が流れることは一切無く、電源ボタンを切られた黒い塊はただ静かに佇んでいた。

(素直じゃないなあ、玲名も)

リュウジは玲名をちらりと見やる。
昨日、確かに彼女は怒っていた。怒っていたけれど、その耳が真っ赤に染まっていたことをリュウジは見逃さなかった。
ヒロトのストレートな愛の告白を彼女はどう思ったのだろう。
一週間後に帰ってくるであろう彼に、頑張れと心の中でエールを飛ばした。


(豪速球はストレート)
変化球なんて、彼女には通用しない







※20歳くらい。
※タイトルが野球なことは気にしない




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