18歳春。
オイラのターニングポイント。






「あっれー?デイダラちゃん今日もバイト?」
「バイト!うん」
「そんじゃバイト終わったら電話すっから出ろよォ」
「あいよーじゃあな飛段!」
「おうバイトふあいとお」

本当にファイトなんて思っているのかも危うい飛段のゆるい言葉にオイラは苦笑を漏らした。

教室を飛び出して軽い足取りで廊下を進む。上履きから履き慣れたローファーに変え古びた自転車置場へ。何も入っていないに等しい軽すぎる鞄をかごに放りサドルに跨がる。さあ目指すはバイト先のコンビニだ!

「おし!今から行けば早めにタイムカード押せんじゃねえか!急ぐぜ!うん!」

綺麗な金髪を風になびかせながら、デイダラはペダルを漕いだ。








「進路、か」
「どうすりゃいいかオイラもうわかんねえよ、うん」
「姉に聞いてみたらどうなんだ。進学するにしろ就職するにしろアイツに話さなきゃならない問題だろ」
「お姉に話したら絶対進学って言うに決まってる。角都ならわかんだろ!」
「まあ確かにアイツならそう言うだろうな」

バイトももう少しで終わる午後9時を過ぎた頃。姉の職場の上司でクラスメイトの飛段の恋人である角都が店にやってきた。

共に働いているもう一人のバイトはバックで商品整理をしているため、店にはレジの机にだらしなく突っ伏したデイダラと、買った缶コーヒーを飲む角都しかいなかった。

「進学したいならそう言えばいい。お前本当は美術の大学に行きたいんだろ」
「そりゃっ、まあ行きたいけど。芸術は金かかるって言うし家には塾に通う金もねえんだ。そんなこと簡単に言えない」
「だからといってずっと隠しとおすのにも無理がある」
「だあああ!わかってるそんなこと!だからこうやって相談してんだろ!?うん!?」

頭を抱え込むデイダラに角都は呆れて溜め息。素直に話せばいいものの何故こうも意地を張るのだろうか。角都には理解し難いことだった。

「とにかく自分で考えて答えを出すしかない。俺は帰る」
「えっ角都帰んの!?」
「俺は客だ。帰って何が悪い」
「あっいや、何も悪くないぞ、うん」
「まあ限界が来たら連絡しろ。仕方ないから相談に乗ってやる」
「サンキューな」

ぴろぴろぴろーなんて愉快な音と共に角都はコンビニから出ていった。その背を見送ったあとデイダラは静かな店内を見回す。珍しいことに今日は立ち読みする客さえもいない。とても暇なこの時間帯。これならまだ忙しい方がマシだ。

これといってやることもなく暇つぶしにバイト仲間との連絡帳を読んでいた。そのせいもあってか最近寝不足のせいもあってか、店内に入ってきた一人の客に気付くこともなくデイダラはペラペラとページをめくり続ける。

「おい」
「はいいい!?」
「コピー用紙」
「へ?」
「A4のコピー用紙切れたって言ってんだ」
「あっすんません!今取り替えますんで」

赤い髪、端正な顔立ち、小柄な身体、心地よい声色。無愛想という点を除けば魅力的な男がレジの前に立っていた。その印象的な髪色は何回か見たことはあったが、こうやって面と向かうのは始めてかもしれない。

なんて悠長に思っている場合ではなく、A4ですか?少々お待ちくださいと言いデイダラは急いで戸棚からコピー用紙を取り出す。重いその束を抱え込みコピー機の前に身を屈めた。

「なあ」
「はい?」


「お前俺と付き合え」


ガチャンッ
用紙トレイを引っ張ったときの効果音と赤髪の男から発せられたその言葉は上手い具合に重なった。デイダラの動作は一瞬停止する。聞き間違いでなければ、今自分の左に立っている男は信じられない言葉を口にしたはずだ。

トレイを掴みっぱなしの右手を何とか動かして両手で束になったコピー用紙を掴む。トントンと両端を揃えて、漸くデイダラは左にいる男へと顔を向けた。とはいってもデイダラは屈んでおり彼は立っているのだから、必然的に見上げるかたちになってしまう。見上げた男は恐ろしいくらい平然としていた。嗚呼間違いない。さっきのは聞き間違いだ。

「何かおっしゃいましたか?」
「あ?だから俺と付き合えって言ってんだよ。人の話を聞けねえのかお前は」

パラパラとデイダラの手からコピー用紙が滑り落ちていった。









告白はコピー機の前(オイラの頭ん中はコピー用紙みたいに真っ白になった)









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