見失うな絶対に。









弱肉強食

この忍の世界はまさにこれだ。弱い者は負け、強い者は勝つ。大切な人を守りたいのなら強くなければならない。だから弱い者はそんな人間を持ってはならない。

オイラには大切な人なんていなかった。だから弱くても良かった。だけどオイラは強かった。大切な人を守ることも出来た。なのにオイラには強さはあってもそんな人間はいなかった。じゃあこの有り余る力をどうしろと?そこでオイラは思いついた。



オイラはオイラのためだけに戦えばいい。



「…ッ…ラ、デイダラ」
「あ、旦那か。うん」
「何ボーッとしてんだ」
「ごめんごめん。どうだった?街探索してきたんだろ?」
「ハズレかもな。どうやら俺らがこの街に着く前に何処かへ移動したらしい」
「うえ。無駄足かよ」
「てめえがちんたらしてるからだろーが」
「そうかもな」
「?」

デイダラは窓の外を眺めながらサソリの悪態に言葉を小さく返す。いつもと違う彼のその反応にサソリは微かに眉を潜めた。

暁ではさほど珍しくないある役人の暗殺という任務を二人は今遂行中。今日はその役人を追って街まで来たのだがどうやらソイツはもうこの街にはいないらしい。せっかく旅館の予約まで取ったというのに。

「じゃあサソリの旦那はゆっくりしとけよ。オイラが夕食の調達に行ってくっから、うん」
「…いや、俺も行く」
「いいよ。旦那は探索してきてくれたろ?だからオイラが行く」
「………」
「うん?」
「何でもねえ」
「そっか。じゃ行ってくる」

椅子から立ち上がり、デイダラは傘を片手に部屋から出ていく。サソリはその後ろ姿を見送るとその椅子へと腰を下ろす。だがやはり先程のデイダラの意味深な行動がどうも気にかかる。結局サソリもデイダラ同様、部屋を出た。








「何やってやがんだ、アイツは…」

予感的中。あのあとサソリはデイダラの尾行をしていた。デイダラは街に出て夕食の調達をするはずだった。だが彼は今、林の中にいた。そして彼の周りには血に染まった忍が数人横たわっている。

ここに至るまでの経緯を説明しよう。デイダラは旅館を出たあと真っ直ぐに街へと向かった。そして街中で忍数人に話しかけられた。何を話したか知らないが、デイダラは彼らと共に街から少し離れた林の中へ入っていった。それからすぐデイダラは彼らと戦闘に。戦いはすぐに終わった。デイダラの圧勝だ。

そして今に至る。ちなみにサソリはその様子を木の陰からずっと眺めていた。

「はあ、はあ…、はあ」

息を切らしたデイダラが、既に戦闘不能の忍の胸ぐらを掴み上げる。怯えきった忍を嘲笑い、また頬に拳を当てた。グギッという不気味な音が響く。

「命乞いしてんじゃねえ、うん。おめえら、忍だろ?」
「うっうわあ、来ん、」
「弱ェくせによ。はははッ」
「ひいっ」
「ははははは!弱ェ奴は死ねばいい!オイラが殺してやる!」

デイダラは笑みを浮かべながら逃げまとう忍を踏みつけ、クナイを構える。そのとき、サソリは林の中から飛び出し彼の腕を掴んだ。

「サソリの、旦那…!?」
「買い出しはどうした」

サソリの問いにデイダラは更に口角を上げ、腕を振り払う。クナイを懐にしまい、肩をすくませやれやれという仕草をとった。

「ごめん旦那。今から買い出し行ってくる、うん」
「その血だらけの格好でか?」
「…これは返り血だ」
「別にお前が敵から傷を受けただなんて思ってねえ。ただ、」
「………」
「今回の任務では無駄な殺生は控えろと言ったはずだ」
「…悪ぃ旦那。でも誰も殺しちゃいねえ、うん」

デイダラは横たわる忍を重ね一つの山にまとめた。乱れた衣服を正し傘を被ろうとしたが、その傘はサソリの手によってはじかれる。はじかれた傘は、重力に従いデイダラの足元へと落ちていった。

「…何すんだ」
「起爆粘土は使わなかったみたいだな」
「こんな奴等に使う価値なんてねえ、うん」
「使わなかった理由はそんなんじゃねえだろ?」
「はあ?」
「何の腹いせかは知らねえが、お前のあそこまで殴る蹴るに徹底した戦いを見たのは始めてだ」

積み上げられた忍達には幾つもの痣がつけられている。遠距離タイプのデイダラがこのような戦闘を選ぶのは珍しい。

「身勝手なもんだな。典型的な周りが見えてない奴の戦い方だ」
「言わせてもらうが旦那、アンタにはオイラがどう戦おうと関係ねえだろ」
「てめえはてめえのためだけに戦ってんのか?」
「ああ。オイラはオイラのために戦う」
「………」
「弱くもならねえ大切な人間も必要ねえ。強くな、」
「お前は弱い」

強い意志が込められたデイダラの言葉を遮ったのは冷たいサソリの言葉だ。

「オイラが、弱い?」
「弱い。弱すぎて笑えてくる」
「ンだとコラッ!」
「自分のためだけに戦う奴なんて弱ェに決まってんだよ!」
「!?!?」

サソリはデイダラの胸ぐらを掴み上げ、滅多に出さない怒声を発する。それにデイダラは驚きで目を丸くした。

「俺もかつては自分のためだけに戦った」
「………」
「デイダラ俺とお前は何だ?どんな関係だ?家族?恋人?親友?どれもちげえだろ。俺とお前はツーマンセルを組んだ、パートナーだ。今の俺はお前のために、お前を守るために戦ってんだよ」

どさりと、デイダラの身体は地面に下ろされる。デイダラは尻餅をついたままそこから動けない。なぜならサソリの言葉があまりにも衝撃的だったから。

「サソリの旦那は、オイラのため?じゃあ、オイラは?」
「………」
「アハハ!じゃあオイラはサソリの旦那にとって、守りたい奴なのか、うん」
「………」
「でもオイラはっオイラのために、旦那の守りたい奴はオイラで、オイラのために、だけどオイラはオイラの、」
「おいデイダラっ」


「じゃあオイラは、何のために、戦ってんだ?」


「デイダラ…」
「止めろよ旦那ッこんなことオイラに考えさせんなよ、じゃなきゃオイラはっ」
「デイダ、」
「じゃなきゃオイラは、戦えなくなっちまうだろッ…」

戦うことに理由なんて必要ないのかもしれない。だけど思う。何のために戦い、誰のために殺めるのか。その答えがわからなくなると見失うのだ。辿るべき道を。

「なら、俺のために戦え」
「え…」
「俺のために戦うんだよ。それでいいだろ」
「旦那のために、オイラは戦うのか?」
「文句あんのか?」
「文句は、ない、けど。うん」
「ならいい。帰るぜ」

デイダラの目の前に差し出されたサソリの手。またもや目を丸くしたデイダラだが、急かすサソリに促されそれに自分の手を重ねた。

先を歩くサソリの速度に付いていこうとデイダラは自然と小走りになる。それもそのはず、デイダラの腕はサソリによって掴まれているのだから。

林の中から見える空はオレンジから黒へと変わりつつある。もうすぐ夜を迎えるのであろう。

「言うなよ」
「うん?」
「自分のためだけに戦うなんてくだらねえこと、二度と言うんじゃねえ」

その言葉と同時にデイダラの腕を掴んでいた手の握力が強まる。デイダラはその痛みに顔をしかめたが、目に浮かぶこの涙はきっとその痛みからではないだろう。









痛みからじゃなく喜びから(駄目だ涙が止まらない)


突発的意味不明小説なんばーわんです。






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