笑顔なんて必要ない。









それでもアイツは笑う。本当によく笑う。忍に抜け忍に犯罪者に、そんなもの必要ないのに。

「ん?」
「あ?」
「何?」
「いや、何でもねえ」

観察すれば一目瞭然。澄んだ碧眼は慌ただしく形を変え、唇は凹凸両方の弧をランダムに描く。キツイ眉毛も右肩上がり右肩下がり右肩上がりの繰り返し。

「言いたいことあんなら言えばいいだろ!うん!」
「いや?」
「今日変だぞ旦那。オイラの顔に何かついてんのか?」

サソリの返答が気に食わないのか、デイダラはぺたぺたと自分の顔を触る。

「お前って騒がしいよな」
「芸術は爆発だからな、うん」
「ちげえ。お前自身が騒がしいって言ってんだ」
「え?オイラ?オイラクール」
「………まだクールブーム去ってなかったのか」
「何だよブームって!オイラはクールなんだから去ったりしねー!うん!」

見ろ旦那!オイラの芸術を!とデイダラは狭い室内で怒鳴り出す。ノリノリで両腕を広げ粘土を吐き出そうとするが、サソリによって投げられた枕が顔面直撃。スローモーションで彼の身体は後ろへ倒れていった。

「いいぞデイダラ。儚く息を引き取るその姿。まさにお前の言う一瞬の美だ」
「死んでねえ!」
「チッ」
「今舌打ちしたろ、うん」

デイダラは文句を吐き捨て、枕を腕に抱えながら胡座をかく。一方サソリは、デイダラから目をそらしまた傀儡を弄り始めた。

「旦那」
「何だ」
「何でオイラの顔見てたんだよ」
「…おまえのかおがかわいいから」
「明らかすぎる棒読み!」

もっと抑揚をつけるべきだったかもしれないが、サソリにはこれが精一杯である。

「…どうしてそんなに喜怒哀楽を絶やさねーのかって不思議に思ってな」
「きどあいらく?」
「喜び怒り悲しみ楽しみ。お前はそれを全面的に顔に出す」
「いけねえのか?」
「忍には御法度だ」

その言葉を聞きデイダラの表情が曇る。だからそれがいけないと言っているのに。

「じゃあ!」
「?」
「オイラ旦那の前だけは喜怒哀楽、他の奴等の前ではクールでいくぜ!うん」
「はあ?」
「それなら文句ねえだろ?」

いやいや文句大アリだ何故俺限定でやかましくされなきゃならねえ。

とサソリは言いたいがデイダラの瞳は子供のように輝いているため、なかなか口に出せない。

「………あのな、」
「だからさ、サソリの旦那もそうしてくれよ!うん」
「?」
「オイラの前では、笑ってよ」

さっきまでとは打って変わって、悲しみを含んだ顔でデイダラは微笑む。


笑ってよ?笑う?人形の俺が?仮に笑ったとしても、笑って何になる?この笑顔を受け止めてくれる奴なんて、誰もいやしないのに。


「デイダラ」
「違う」
「は?」
「全部違う」
「………」
「だから大丈夫だ、うん」

デイダラはそう言って、今度は無邪気に笑った。何がどう違うのか。サソリは問おうとしたが、開いた口は声を発することなく閉じられる。


そしてその問いは、瞳から、姿を変えて溢れ出た。









笑ってよ(ここに貴方の笑顔を待ち望んでいる人がいます)






06.笑ってよ

「全部違う」というのは旦那は人形でもなく、笑顔を受け止めてくれる人もいるということ。旦那は無意識にその言葉を理解していたからこそ、声が出る前に涙が出てしまったというお話。

補足がなければ理解できない駄文で申し訳ないですorz







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