だからって、手を差し伸べることも出来やしない。
静寂に響くのは泣き声。耳につくのは泣き声。大嫌いで面倒で少し心配な、アイツの泣き声。
どうしてそこまで意地を張る?それはアイツに問うのか、それとも自分に問うのか。
「夜泣きは止めろ」
「泣いて、ない」
「お前の泣き声が俺の部屋まで聞こえてくる」
「オイラ泣いてなんかひっく!ないっ」
「………今のひっくって何だ」
「口癖だ、うん」
「これ以上口癖増やすな」
布団にくるまったまま一向に顔を見せないデイダラにサソリはため息を漏らす。
デイダラが暁に来てから約2ヶ月。最初の頃は夜泣きなんてしなかった。けれど最近になって毎晩この状態。面倒ではあるがパートナーとして放っておく訳にはいかない。寝不足で任務に支障が出たらどうしてくれる。
「泣いてないんなら早く寝ろ。明日も任務だろーが」
「………」
「じゃあな」
踵を返し部屋を出ていくサソリを布団の合間からデイダラは眺めていた。乱暴に閉じられたドア。静かすぎる空間に一人残されたデイダラの目にぶわあと涙が溜まる。ぽろぽろとそれは枕に吸い込まれていく。
「やだ、やだっサソリの、だんなあ!ひっく」
布団を撥ね除け千鳥足に近い足取りでサソリの部屋へと向かう。そして先程のサソリのように乱暴にドアを開けた。
月明かりに照らされただけのサソリの部屋は薄暗い。ベッドに寝転んでいたサソリはデイダラの来訪にさして驚かず、何の用だとだけ呟いた。
「って何勝手に入ってきてやがんだてめえ…」
「オイラ、泣いてないっ」
「あ?」
「ひっく…ひっく!ひっ泣いて、ないよ!うん、ひ!」
真夜中に訪ねてきて勝手に布団に入り込んできて泣きながら泣いてないなんて言ってきて。もしデイダラ以外がこんなことをしてきたら直ぐ様殺めていたが、間違いなく今目の前にいるのはデイダラ。
大嫌いで面倒で少し心配な、俺のパートナー。
「泣いてないのはわかった。じゃあ何しに来た?」
「旦那が、オイラが泣いひっく!泣いてるって、勘違いしてたら、やだったひっくから」
「…そうか」
「撤回できたし、オイラ、寝る」
「ここでか?」
「………」
「はあ…勝手にしろ」
すーすーと寝息が聞こえてきたのでサソリも瞳を閉じる。泣き声より寝息の方が子守唄には適当だと、そう思った。
泣いてないよ(でもそばにいて)
05.泣いてないよ