俺をブラコンと呼ぶのなら、アイツらはファミコンだ。









「イタチ。ここだ」

細身のジーンズに無地のロングTシャツ、その上に薄めの黒いジャケットを身に纏った青年。シンプルな服装ではあるが、彼が身に纏うだけでこんなにも美しく見えてしまうのは何故だろう。

その理由も至ってシンプルだ。彼のルックスが完璧だから、である。

「すいません遅れて………何で鬼鮫もいるんだ」
「そんな嫌そうな顔をするなイタチ。鬼鮫とさっきたまたま会ったから、一緒にお茶でもどうかと誘ったんだ」
「………」
「あのイタチさん。目からその、殺意みたいなものが滲み出てるのですが」
「殺意みたいなものではなく殺意だ」

きっぱりと言い放ち、イタチは椅子に腰かける。そのイタチの態度にペインは苦笑、鬼鮫はため息をもらした。

今にも雨が降り出しそうな暗い雲に覆われたある日の昼下がり。久しぶりにペインからの誘いを受けたイタチはこうして喫茶店へと足を運んだ。だがそこには小中高大とずっと同じで腐れ縁でもある鬼鮫がいた。不愉快になるのは致し方ないことだ。

「ホットココア一つ」
「かしこまりました」

甘党なだけにやはり甘いもの。外見からしてブラックコーヒーが似合いそうなイタチだが、中身は真逆である。

「それよりリーダー」
「ん?」
「用件は?まさか久しぶりに会いたくなったなんて理由だけで、俺を呼び出したわけではないでしょう?」

さすがイタチだと言うべきだろうか。やはり彼に隠し事をするのは難しい。

「イタチの言うとおりだ。偶然今日鬼鮫に会えたが、近い内に鬼鮫とも会うつもりだった」
「ということは私に対しても何か用件があったと?」
「ああ。中学高校と、アイツと同じだったお前らでなければ聞けないことだ」

アイツという言葉に微かにイタチの眉毛が動く。鬼鮫は理解したようであーなるほどと小さく呟いた。

「サソリさん、ですか」
「当たりだイタチ」
「とは言っても、私達とリーダーの繋がりはサソリさんなんですから、当たり前といえば当たり前ですよね」
「黙れ鬼鮫。私“達”で俺とお前をまとめるな」

鬼鮫の言うとおりイタチと鬼鮫はサソリを通してペインと出会った。中学校時代サソリと行動を共にしていた二人。そうすると自然にサソリの保護者的存在であったペインと小南とも交流をするようになった。ペインのあだ名がリーダーとなった原因は未だに不明ではあるが。

「それで?サソリさんがどうかしたんですか?」
「趣味を持ったらしい」
「趣味?」
「芸術やら化学やら只でさえ忙しい人なのにまた新しい趣味を?」
「しかも厄介なことに、今回はその趣味が人間だ」

三人の話題を遮るようにお待たせしましたーとイタチの前にホットココアが置かれる。イタチはくるくるとスプーンでココアをかき混ぜ、またペインにその漆黒の瞳を向けた。

「サソリさんが興味を示したその人間に何か問題でも?」
「ここからは俺と小南の憶測だが、その人間はたぶん男だ」
「おや。サソリさんにそっちの気があるというのは初耳ですね」
「お前だってイタチラブだろ」
「ちょっ…リーダーその冗談いい加減止めていただきたいのですが」
「すまん鬼鮫。俺は永遠にサスケラブだ」
「毎回いちいち反応しないでくださいイタチさん」

ちょっと拗ねてしまったのかコーヒーをずずっと飲む鬼鮫。そんな彼を見ていると満更でもなさそうだなとペインを思う。昔から鬼鮫はイタチ一筋だ。

「別にいいんじゃないですか?俺が知る限り、サソリさんは今までまともな恋をしていませんし」
「そういう関係を持った方々はたくさんいたようですがね」
「別に俺だってサソリが恋をするのは賛成だ。相手が同性であろうと否定するつもりはない。だがな、サソリはちょっと歪んでるだろう?」

イタチはココアを口に含み静かに頷いた。まあ確かにサソリは歪んでいる。歪んでいるというよりひねくれているといった方がいいだろうか。決してまっすぐとはいえない性格をしている。

「だから心配なんだ。サソリには一途に誰かを大切に思う心、所謂愛情を持ってほしいと思っていた。だがアイツはそれをずっと避けてきた」
「高校ではあの人何股もしていましたしね。本当に羨ましい限りでしたよ」
「お前は一股も出来なかったもんな。鮫だったし鮫だったし鮫だったし。しかも今も鮫だし」
「イタチさん黙って下さい」
「真面目に聞けお前ら…」

仲が良いんだか悪いんだかわからない二人を見ていると、自然と笑みがこぼれる。この二人と一緒にいたおかげでサソリは随分と笑うようになった。大笑いしたところは見たことはないが、微かに笑みを浮かべる姿は何度か見たことがあるのだ。

「そんなサソリが一人の人間に興味を示したんだ。こんなことを言ったらサソリには失礼だが、その人間が心配で仕方ない」
「その人間がサソリさんから何か被害を受けると?」
「可能性はなきにしもあらず、だろ?」

サソリの女癖の悪さはイタチと鬼鮫もよく知っている。そんなサソリが一人の男に興味を示したのだ。何をしでかすかわからないと不安に思うのは当然だ。

「ところでリーダー。それを私達に話してどうするんです?」
「だから鬼鮫。私“達”とまとめるな」
「何かサソリから聞いていないか?サソリが興味を示した人間について」

ペインの今日の目的はサソリが興味を示した人間についての情報収集だ。サソリ自身から何も得られそうにないのなら、この二人に聞くしかない。

「そうはいっても私は最近サソリさんと連絡を取っていませんからねー大学も違いますし。イタチさん確かサソリさんと同じバイト先でしたよね?」
「ああ。サソリさんとはこの前会ったばかりだ」
「何か言ってなかったか?些細なことでも何でもいい」

イタチは顎に手を添え考え始める。

バイト先でのサソリさんとの会話。彼はギリギリに来たにもかかわらず随分とのんびりとしていた。死んだような目で此方を見てきたから注意した気がする。そのあとこれといって会話もしなかった。自分は構わずスタッフルームを出ようとドアノブに手をかけたとき、

「あ」
「何だ!?何か言ってたのか!?」
「リーダーうるさいです」

身を乗り出して聞き返すペインを抑えるように鬼鮫が促す。イタチはまたココアを口に運び、きょとんとした顔で話し始めた。

「男の金髪且つ長髪」
「は?」
「はい?」
「男の金髪且つ長髪をどう思うかと聞かれました」
「おとこのきんぱつかつちょーはつ?」
「リーダー読みにくいです。まあその質問からしてサソリさんが興味を示した人間は男で、金髪且つ長髪ということですね」

鬼鮫のフォローのおかげで何とか理解するペイン。サソリが金髪で長髪の男に惹かれたとは。否でもサソリ自身も赤髪なのだから、髪型や髪色なんて重要視する項目には入らないか。

「金髪且つ長髪の男か。わかったありがとうなイタチ」
「いいえ。それよりこれだけの情報で大丈夫なんですか?」
「これだけわかれば十分だ。あとはゼツに任せる」
「おやおやゼツまで使うとは。張り切ってますねえ」
「何か起こってからでは遅いからな」

心配性すぎるペインに気付かれぬように、イタチと鬼鮫は目線を合わせ呆れたように笑った。ぶっちゃけペインと小南の子離れの方が問題なのではないか。子というのは、外見は可愛らしく中身は腹立たしいあの赤髪の彼のことである。

それでもそれを口には出さないイタチと鬼鮫。心配性すぎるペインと小南、それといつまでも子供なままのサソリが何だかんだ好きなのだ。まあそれも口には出さないのだが。









家族のようなあの三人(ペインパパに小南ママにサソリちゃん)









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