星に願ったあの夜も、彼は一人で泣いていた。









目の前にいる(自称)天才は生まれ持った整った顔立ちをそれはもう残念すぎるほど崩していた。まあポーカーフェイスが売りな彼がこんなにも感情を表に出しているのだから、余程楽しいことがあったに違いない。だからこれは微笑ましい光景なのだけれども、その表情は何か良からぬことを企んでいるように見える。だから素直に喜べないのだろうか。それとも他に何か理由が、

「おいペイン。ジロジロこっち見てんじゃねえ」
「サソリ、何かあったのか?」
「あ?」
「何かあったのか?とても楽しそうに見える。なあ小南。お前もそう思うだろう?」
「あぁペイン、お前がとても気持ち悪く見える」
「だろう?ってあれ?え?俺?てか気持ち悪く?え?」
「とても気持ち悪く見えるペインはいいとして、サソリ。何かあったのか?最近のお前は随分と機嫌がいいから」

サソリの古くからの友人であるペインと小南。大学近くの喫茶店で優雅にコーヒーを飲んでいたサソリであったが、いきなり現れたこの二人に邪魔されてしまったのであった。

「ククッ…最近の俺はどうも顔に出やすいみたいだな」
「他にも誰かに聞かれたのか?」
「ババアだ。まぁ、あいつは例外か」
「あの人が気づいているということは、本当に何かあったということだな」

印象的なペインの瞳とサソリの真っ赤な瞳がぶつかる。ペインと小南は昔からサソリに何かある度にこうやって執拗に干渉してくる。両親が他界してしまっているせいもあってか、ペインと小南はサソリに対して異常なほど心配性であった。

「…趣味が出来ただけだ」
「趣味?」
「面白いものを見つけた。それに興味が沸いた。どうにか手に入れた。さあこれからどう遊ぼうか。俺が考えてるのはそれだけだぜ?」
「お前が趣味とは珍しい。芸術か?化学か?それとも何か開拓したのか?」
「それは教えられない。ないとは思うが、お前らがあれに興味を持たれたら困るからな」

椅子から立ち上がり上着を着始めたサソリを二人は鋭い視線で見つめる。サソリが趣味を持つことはあまり感心できることではない。必ず何かしら問題が起きるからだ。

小銭を何枚か置き、立ち去ろうとするサソリ。そのとき小南が彼の背に静かに問いかける。

「サソリ」
「……何だ?」
「その趣味は、人間か?」

その言葉にペインは驚き小南を見たが、小南は相変わらず鋭い視線でサソリを見つめていた。何秒か経ったあと、振り返ったサソリの瞳は恐ろしいほど冷たかった。

「だったらどうした」

それだけを口にして赤髪は店から出ていく。ペインは追おうと立ち上がったが、その腕を小南に掴まれてしまったため、また椅子へと腰を下ろした。

「小南、人間って…」
「恐らくお気に入りの人間でも見つけたのだろうな」
「…恋人、彼女か?」
「彼女であればいいが」
「どういう意味だ?」

今までさんざん好き勝手に遊んできたサソリのことだ。女に飽きていてもおかしくはない。そうすると選択肢は限られてくる。

「恋人で彼女じゃなければ、残りは彼氏しかいないだろう?」
「彼氏って…あのサソリが男に身体を委ねると思うか?」
「その逆だ」
「逆?」
「サソリに興味を持たれた人間が、あいつに弄ばれることになるだろう」

小南はだいぶ冷めてしまっているコーヒーを口に運んだ。そしてまた続ける。

「壊れなければいいがな」
「その人間がか?」
「ああ。サソリは人から愛情を受け取っていない分、一人に対する愛情の要求が大きい」
「………」
「だが、その人間がサソリのことを誰よりも大切に思ってくれるのなら、話は別」

そうすればサソリもその人間を誰よりも大切に思うことができる。人間にとって必要不可欠な愛情を知ることができる。ペインや小南ではサソリにとって不十分であった愛情を、彼にたくさん与えてやってほしい。

「まあ小南、今は深く考えずにサソリを見守ろう」
「ああ」

どうか彼が、孤独を感じることがありませんように。









願いはただ一つ(その一つがいつも叶わない)









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