幼き頃誰もが一度は描いた将来の夢。大人になってその夢を演じられている者は、一体どれくらいいるのだろう。









「どうしたんじゃサソリ。やけに機嫌がよいのお」
「あ?」
「何かよいことでもあったのか?」

帰宅早々サソリは玄関で出迎えてくれたチヨバアにそんなことを言われた。確かによいことはあったが、顔に出ていたとは…恥ずかしい限りである。

「何もねえ」
「そうかそうか」

意味深な微笑みを浮かべたあとその場を後にする祖母にサソリは軽く舌打ちをした。何でもお見通しだと言わんばかりの彼女の態度はどうも気に食わない。

「まあ実際何でもお見通しなんだろうけどな…」

唯一の身内である彼女にはどんな嘘も意味を為さないのである。








デイダラは昨夜と同じ重い足取りで自宅の階段を登っていた。今日のノルマは赤髪告白事件解決だったはずだ。だがしかし解決どころか昨夜よりも悪化してしまった気がする。

けれども悪い気はしなかった。少しだけ未来に希望が持てたといってもいい。まだサソリのことを信用できるわけではないけれど。

「サソリ…」

携帯のアドレス帳にはきちんと彼の名前、電話番号、メールアドレスが記録されている。彼が勝手にやったことなのだが、デイダラは削除ボタンを押そうとはしない。

「お姉ただいま、うん」
「おかえりー遅かったね」
「ん?」
「今日いつもより遅かったじゃん。何かあった?」
「いや、何もないぞ、うん」
「……あっそ。昨日の話の続きしたかったのにあんたがなかなか帰ってこないから出来なかったじゃん」

デイダラの分であろう夕飯の支度をし始めた姉。静かに靴を脱ぎデイダラは台所にいる姉の背を見つめる。

昨日の話とは進路の話。それは先程までサソリと話していたことでもある。昨日の自分を貫き就職するか、今日のサソリを信じ進学するか。

不思議とデイダラの意志は後者になっていた。

「お姉。オイラ、進学したい」
「!?」
「G大の美術専攻に行きたい」
「デイ」
「オイラの、夢なんだ」
「………」
「芸術家になりたい、んだ」

最後の最後で語尾が震えてしまった。情けないったらありゃしない。だけどお願い、伝わってくれ。これが今の、オイラの、心からの、嘘偽りのない願望だ。

「……最初からそう言えっての」
「え?」
「まあ頑固なところがデイの短所であり長所でもあるけどね」
「お姉?」
「よく言ったデイダラ!姉ちゃんはその言葉ずっと待ってたぞ!」

お玉片手に振り向き笑った姉は、あの見返り美人より何億倍も綺麗に見えた。

「お金のことはデイは心配しなくていいからね。お姉ちゃんが何とかする。貯金もあるし」
「でもオイラバイトは続けるぞ、うん」
「何言ってんのあんたは受験勉強!バイトしてる場合じゃない!」
「いやオイラ、」
「美術の予備校とか行かなきゃだよね。それについてもちょっと調べなきゃ」

どんどん話が進んでいくのでデイダラはなかなか付いていけない。

けれどもデイダラは「美術の予備校」という言葉にだけは何とか食い付いた。

「お姉!オイラ予備校には行かねえぞ!」
「だからあんたさっきから何言って」
「違うんだ、うん。行く必要ねえんだ」
「必要ないわけないでしょ」
「そのっ講師が、うん」
「はあ?」

お前の美術講師になってやるとサソリは言っていたが、何て姉に説明すればよいのだろう。恋人になるという条件付きで天才が自分専属の美術講師になってくれました、だなんて。言えるか!うん!

「G大に通ってるって人が、オイラの、えっと家庭教師みたいなのになってくれる、らしい」
「何でそんなに自信無さげなのよ。それで?その人がきちんとデイの美術講師になってくれるって言ってるの?」
「うん」
「…とりあえず一回その人に会わせてね。講師やってくれるのなら挨拶しなきゃならないし」
「わかった。言っとくぞ、うん」

そんじゃオイラ着替えてくると言ってデイダラは自室へと入る。Yシャツを脱ぎ、髷をほどき髪を一本に高く結わく。すると首筋にぬるっとした感触がして、手を添えるとズキッとした痛みが走った。不思議なもので、意識し始めると傷跡はじくじくと痛み始める。

「オイラこんなんで本当にやっていけんのか、うん…」

鎖骨から胸元に伝うこの赤い糸は、これから何処へと流れていくのだろう。









雨降って地固まる。血流れてさあどうなる?(どうか夢叶うになってくれ)









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