手に入れたい。
理由はそれだけ。






平凡な毎日を送っていた。ドラマのような恋愛や絵に描いたような青春は、俺にとって何の価値もない。だからといって平凡な毎日に満足できるわけでもなかった。

「サソリさん、死人みたいな目で此方を見ないでください」
「失礼な奴だなてめーは」
「何だか最近ずっとつまらなそうな顔してますね」
「つまらねェ毎日送ってるかんな」

夕方から深夜にかけてある居酒屋でのバイト。時給は高いが生活リズムが狂うこの仕事は身体に多少負担がある。バイト仲間で高校時代からの知り合いであるイタチとくだらない話をしながら、サソリは頬杖をついた。

「だりい」
「これからバイトですよ」
「ンなことわかってる」
「それじゃあとっとと準備してください。俺先行きますよ」
「…なあイタチ」
「はい?」

ドアノブに手をかけたイタチは振り向き首をかしげる。サソリはくるりと椅子を回転させ、イタチに視線を合わせた。

「男の金髪且つ長髪ってどう思う?」
「男の、金髪且つ長髪?」
「ああ」

少しばかり眉間に皺を寄せたイタチは、興味ないですねとだけ言いスタッフルームから出ていった。それではサソリの質問の答えになっていないのだが、答えにあまり期待していなかったサソリは身体を反転させまた頬杖をついた。

「金髪且つ長髪。蒼色の瞳。奇妙な言葉遣い」

サソリの脳裏に浮かぶ人物は最近立ち寄るコンビニで見かけた男。あんな餓鬼サソリにとってどうでもいいはずなのに、彼のことを綺麗だなんて思ってしまったせいかなかなか頭から離れなかった。








「お、お客様っえ?」
「あからさまに言い慣れてねえ敬語使うのやめろ。気持ち悪ィ」
「な!?失礼だな!うん!」

初めてこのコンビニでコイツを見かけたとき、コイツは知り合いらしき銀髪の男と楽しそうに話していた。そのとき微かに聞こえた口調と一致したので、サソリは悟られないように薄く微笑む。そして屈んでばらばらになってしまったコピー用紙を拾い上げた。

「ほら」
「あっありがとな」
「デイダラ、か」

コピー用紙を受け取りすっかり敬語の抜けたデイダラの左胸についているネームプレートを掴む。そこには下手くそな字で確かにデイダラと書き込まれていた。

「デイダラ」
「…うん?」
「俺と付き合え」

本日3回目の告白。だが目の前の金髪は頭が弱いのか何なのか知らないが、未だに状況を理解出来ていないご様子。

「えっと髪長いからよく勘違いされんだけど、オイラ男だぜ?」
「ああ知ってる」
「それにほら!アンタかっこいいんだからオイラなんかより、」
「なあ」
「うん?ってちょっ、」

さっきから絶えず喋りっぱなしにイライラしたのか、サソリは店内にも関わらず屈んでいたデイダラの身体を力任せにそのまま後ろに押し倒し馬乗りになる。さすがにこの展開にデイダラも焦りを感じた。

「なっ何やってんだ!アンタここ店ん中だぞ!?誰か来たら、」
「俺はお前が男だとか出会ったばかりで何も知らねえとか、そんなことはどうでもいい。ただお前に興味が沸いた、それだけだ」
「きょ、興味…?」
「興味が沸いちまうと手に入れたくて仕方なくなる。けど安心しろ。俺は一度興味が沸いたものを二度と手放したりはしない」
「アンタさっきから何言って、」
「てめえがそこらの女より綺麗なのが悪い。なあ、そうだろ?」

ニヤリと口角を上げて笑みを浮かべるその顔は、決して下品ではなく妖艶に感じた。サソリがするりとデイダラの頬を撫でると、デイダラは思ってた以上に冷たいその体温にビクリと身体を震わせる。その仕草にサソリはククッと軽く笑い、また明日来ると言ってデイダラの上から退きコンビニを出ていった。

「ちょっとやりすぎたか?まあいいだろ」

ヤらなかっただけマシだ、と何ともまあ信じられない言葉を吐き捨てながら、寒空の下サソリは家路を急いだ。









好きですなんて言えるかよ(俺は俺のやり方でいかせてもらう)









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