犬用のエサって案外いけるもんだな…。味覚までもが犬になっているのだろうか。そこそこの味だった。と思う。
…いやいやダメだ!このままじゃ心まで犬になっちまう。なんとかして元に戻る方法を…って、その前にまずは誰かに気づいてもらわなくちゃな。リフィルさまかリーガルのおっさん辺りなら…。
「おはよう、ノイシュ」
(クレアちゃん!…は、気づいてくれなさそうだしなー…。うーん…)
「あっ、朝ご飯残さず食べたんだね!やっぱりリーガルさんの料理はおいしいんだね〜」
(だからやけにうまかったのか…)
――ぽすん。
…ん?
「ノイシュは偉いねぇ」
好き嫌いしないもんね、とクレアちゃんは続ける。なんだかくすぐったい。…ああ、頭を撫でられてるのか。気づくのに時間はかからなかった。毛並みが気持ちいいのか、クレアちゃんはにっこりと微笑みながら耳の裏、首、喉元、と撫でてゆく。
…こ、これはこれでしあわせかも…。
すると、よほどだらしない表情をしていたのだろう。クレアちゃんは大きな瞳をぱちぱちと瞬かせ、それからやっぱりにこりと微笑んだ。
「ふふっ…気持ちよかった?でも、きっとこっちの方が気持ちいいんじゃないかな」
(…?)
「綺麗にしなくちゃね」
するとクレアちゃんはブラシを俺の肌に宛て、髪の毛を梳くかのようにブラッシングを始めた。
…ちょ、ちょっと待て!まさか俺さま、ブラッシングが終わるまでじっとしてなきゃいけない感じ…?無防備すぎるクレアちゃんがこんなに近くにいるのに?何それ拷問?くすぐったいとかそれ以前の問題なんですけど!
「クゥーン…」
「よしよし。痛くないからだいじょぶだよ〜」
眩しい笑顔も今じゃ逆効果です。
…頑張れ、俺。
* * *耐えた。とにかく耐えた。耐え抜いた自分に拍手を送りたい。
クレアちゃんは俺さまの毛並みを整えると、川で汲んできたのであろう冷水(これが結構冷たかった)をかけ、最後の仕上げに取り掛かる。厚手の布であらかたの水分を拭き取り「はい、ノイシュ。ぷるぷるだよー!」と。そう言った。
…ぷるぷる?
「ん?どしたの、ノイシュ。まだどこか痒い?」
(…ぷるぷるって何だ?)
「…あっ。そういえば、いつものご褒美あげてなかったね」
普通に考えれば「身体を震わせて水分を飛ばすこと」だと分かりそうなものだったのに。ブラッシング効果(っていうかあれはただの拷問だよな)もあって、どうやら予想以上に思考能力が低下していたらしい。
「朝ご飯を残さず食べたノイシュに、ご褒美!」
ちゅ。
短く、可愛らしい音が大きな耳に届いた。
それから頭を一撫でし「お昼ご飯も残さず食べるんだよ〜!」と走り去ってゆくクレアちゃん。
ふいうちごほうび
(…俺、ずっとこのままでいいかもしんねぇ…)
2012.03.14.
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