目覚めると、そこにはいつも通りの朝があった。朝から鍛練に勤しんだり、武器を磨いたり、読書に耽ったりと様々だ。
だけど、皆が皆朝から活発に動ける訳ではない。俺さまなんかはよく寝坊するから、朝食の時間になると決まって誰かが起こしにきてくれる。

まあ、その大体がクレアちゃんなんだけど。


「おはよう、ゼロス。よく眠れた?」


そう言って俺の頭を撫でるクレアちゃん。
…ああ、やっぱり戻ってねぇのか。少しでも期待したのが馬鹿だった。
と、クレアちゃんの背後から俺さまが姿を現した。二足歩行のコツを掴んだのか、まだ少し覚束ないながらもしっかり歩いている。…おいコラ必要以上にクレアちゃんにくっつくんじゃねーよ!てめーのせいでコレットちゃんに殺されかけたんだからな!少しは反省してくれ…!


「…あのね、二人とも。大事な話があるの」


* * *


許可をもらったから三人(正確には二人と一匹だけど)で話をしてこい。とのことだった。
クレアちゃんが尋ねてくれたらしいが、リフィルさまでも原因が分からないらしい。原因が分かんなきゃ元に戻る方法も分かんねーもんな…。
と、いうことは。大事な話、というのは「もしも」の時のために話をしておけってことか?冗談じゃねぇ。このまま犬として人生を全うするなんてそんなのごめんだ。


「到着ー!」


クレアちゃんの掛け声とともに、俺達は高台にたどり着いた。高台、っつーほどでもねぇんだけど…まあ、高台ということにしておこう。
テセアラでは見たことのない緑豊かな景色が眼下に広がった。爽やかな風を受けながら、クレアちゃんはゆっくり腰を下ろした。それに続いて俺達も腰を下ろす。


(ふぅ…)


街から近いとはいっても、いつ魔物が飛び出すか分からない。魔物に遭遇すると一目散に逃げ出すコイツはあてになんねーし、後衛タイプのクレアちゃんは詠唱中隙だらけ。犬になっちまった俺は二人を背負って逃げることしか出来ない。
最悪の状況にだけはならないようにと、気を張り詰めて歩いていたせいか…疲れた。

四足歩行には慣れたんだけどなー…なんて言ってる場合じゃねぇか。


「…あのね」

(ん?)

「私、ノイシュのことが大好きだよ」

「わふっ!」


そう言ってクレアちゃんが頭を撫でると、犬っころは気持ちよさそうに目を細めてクレアちゃんに擦り寄った。釣られて微笑むクレアちゃん。
なんか…めちゃくちゃ悔しいんですけど。


「ノイシュがゼロスになっても、ゼロスがノイシュになっても、私は二人のことが好き」


だけどね。
一呼吸置いて、クレアちゃんは言う。


「…やっぱり私、ゼロスとお話がしたいの。ノイシュのことも大好きだけど、私は…」


俺の顔を真っ直ぐ見つめて、クレアちゃんは言葉を紡いだ。


二人と一匹のちいさな冒険

(いつになったら終わりを迎えるのだろう)


2012.04.06. 

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