部屋の窓から降りそそぐのは、まばゆいほどの日差し。あたたかくて柔らかくてなんだかほっこりするなぁ。
ああそっか、長い夢を見ていたんだ。オルガに買い物を頼まれておじさんのお店に行って、その帰り道で男二人に襲われて(返り討ちにしたけど)それから…懐かしい顔を見たような気がする。

燃えるような紅い髪に水晶みたく蒼い瞳。
…誰だっけ?


「おはよう」

「ういー…」

「おはよう、ロッティーちゃん」

「あと5分だけ…」

「………」


仕事をしなくちゃいけない。それは充分わかっているけど、この睡魔には敵わない。…ん?睡魔?私、昨日夜更かしなんてしたっけ。
それよりも、なんだかベッドの中の温度が上がったような気がするぞ。手を伸ばせば柔らかな感触が。そうかそうか。抱きまくらか。オルガもたまには気の利いたことしてくれるじゃん。


「…おやすみぃ…」

「…あ、あのー」


最近の抱きまくらは抱き心地がいいなぁ。しかもおしゃべり機能付き。文明の利器ってやつね。すごいわ。
肌はすべすべだし、髪の毛なんてさらさらじゃないの。…あれ。でもなんか…筋肉質…?


「………」

「………」


目の前に広がるは、紅。まぶしいほどのそれに、私の脳は覚醒した。腕の中にいるのは抱きまくら…などではなく男の人だった。そう。オトコノヒト。
…はいいっ!?


「B…いやCはあるな…。ロッティーちゃんが着痩せするタイプだったとは…」

「…!?」

「誤解すんなよ〜?ベッドにもぐったのは俺さま自らの意志だけど、抱きまくらと勘違いしたのはロッティーちゃん…」

「…っざけんなよこの変態がああああ!」

「ぎゃああああ!!」


* * *


なにかを殴る音と、殴られたものの悲鳴らしき声が聞こえる。今日はやけに騒々しいなあ、と、執事に問い掛けた。厨房から紅茶を運んできた彼女は柔らかな笑みを浮かべ、もちろんですわ。と、そう言った。


「ゼロスさま直々にお迎えだなんて、うらやましいったらありゃしない」

「…ふふっ」


柔らかく、それでいて優しく、オルガはふわりと微笑んだ。



近距離モーニングコール



「ちょっとオルガ!私がゼロ…神子さまの屋敷で働くってどういうこと!?」

「こういうことだけど」

「…なにこれ」

「ロッティーを神子さま専属の執事にするっていう契約書」

「はあ!?そんな話微塵も聞いてないわよ!」

「だって言ってないもん」

「こんのバカ主…!」

「ちょ、ちょっとロッティー!もう少し落ち着いて!」

「契約は今日のお昼からになってる。よろしくね」


シェフ一押しのアールグレイをたしなんだオルガは、おいしかったって伝えといて、と、そう言い残して扉の向こうへと消えてしまった。
去り際に浮かべたいつも以上に爽やかな笑顔に腹が立ったけれど、今の私はそれどころじゃなくて。思考回路がパンク寸前です。

ええと…お昼からゼロスの屋敷で働く…ってこと?普通の女の子だったら泣いて喜ぶところだろうけど、私にとってはただの嫌がらせでしかない。
くそう。今日は朝からついてない。














to be continued...

(12.03.22.) 

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