「…もし………あったら…のこと…よろしくな」


…?なに?よく聞こえない。
ぼんやりと視界にうつるのは「あかいろ」だった。夢にまで出てくるなんて、私はどれだけアイツに心を奪われているのだろう。悔しがっていたらあたたかくて大きな手が私の髪を撫でた。
…くすぐったいなぁ。なんだか小動物にでもなった気分。

ぎゅ、と手を握れば「あかいろ」はちょっとだけびっくりしたみたい。でも、それからふんわりと微笑んだ。
ああ、あかいろがいっぱい。


「…じゃあな、ロッティーちゃん」


額に、あたたかいものが触れた。



「さよなら」じゃなく



――バン!

メルトキオ大聖堂の扉を勢いよく開けた。いや、ホントはそんなつもりなかったんだけど。走っていた勢いのままに力を込めたら思いのほか大きな音が聖堂内に響き渡ってしまった。
フィントさんが言っていたシルヴァラントの客人だろうか。赤い服の少年と銀髪の(恐らく)姉弟となんだか生気が感じられない二人の少女がこちらを向いた。もちろん教会に祈りを捧げていた貴族や牧師さんたちも驚いた顔でこちらを向く。
でも、私の視界にはそれ以上に驚いているゼロスの顔がうつっていた。


「ロッティー…ちゃん…!?」

「…誰だ?知り合いか?」

「…大人の話よ。ロイド」

「ふーん…」


いやいや大人の「お」の字もない話ですから美人なお姉さん。そして納得するのが早すぎるよロイドくんとやら。女の子たちは興味なさそうにこちらを見ているけど、弟くん(多分)はにやにやしすぎです。だから、大人の話なんかじゃないんだってば!


「ロッティーちゃん…」


つかつか。いや、ずんずん。かな。
戸惑う蒼色から目を逸らさず無言のままゼロスのもとへ歩んだ。

――ぐしゃっ。

ゼロスの紅い髪をわしゃわしゃと撫でる。いや、掻き乱す?とにかくぐしゃぐしゃにしてやった。
ゼロスはきっとわけがわからず困っていることだろう。
行動であらわす。とは言ったけど、ハグとかキスなんて絶対に無理だからこういう結果にたどり着いた。ぐしゃぐしゃにされてるゼロスも意味がわからないだろうけど、ぐしゃぐしゃにしている私もなんだかよくわからない。でも、これが不器用な私なりの精一杯だから。

よし、これだけぐしゃぐしゃにすれば充分だろう(いや、ゼロスの髪の毛をぐしゃぐしゃにすることが目的ではないんだけど)。あとはなにも言わずにこの場を去るだけ。あとは頼んだわよ、シルヴァラントの旅人さん。
名残惜しむことなく、ゼロスに背を向けて歩きはじめた。
…はずだったのに。


「…ロッティー!」


足を止めてしまった。
…ダメ。このまま突っ立っていたら離れたくなくなってしまう。今すぐここから去らなくては。
だけど、腰に回された両腕がそれを許してくれなかった。


「…あのなあ」

「…っ」

「…こっち向いてよ。泣き虫ロッティーちゃん」

「だっ、誰も泣いてなんか…!」


――あ。


「しっかり泣いてんじゃねぇか…。しかもこのクマどーしたよ」

「…寝不足…なの」

「俺さまのことが心配で心配で眠れなかった?」

「…っ、そうです!その通りだ悪いかバカ神子!」

「え」

「…だ、から…眠れないほど心配してるんだから…絶対…絶対帰ってきなさいよ!!」


なにがなんだかわけがわからない。なにも言わず去るつもりだったのに計画倒れもいいところだ。
だけど、びっくりしていたはずのゼロスが柔らかく微笑んだ。…私にはそれだけで充分だった。
気を遣ってあげることも出来ないし、可愛いことも言えないけど…ずっとずっと待っててあげる。














to be continued...

(13.04.24.) 

*prev top next#

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -