「…で、旅に同行する理由はわかってくれた?」
「…あ」
「ちょーっとちょっとロッティーちゃん!その反応はないでしょーよ!?」
「だって忘れてたんだもん。仕方ないじゃない」
「…俺さまかわいそ…」
私がなんと言おうとゼロスの決心は変わらない。わざわざ言葉にしなくとも蒼色の瞳がそれを物語っていた。
「その旅って、どのぐらい時間がかかるの?ちゃんと帰ってこれるの?」
「…さあな」
「さあなって…」
「どれだけの時間がかかるかわかんねぇし、確実に戻れるとも限らねぇ。…でも」
「でも?」
「待っててくれるよな」
「…その台詞、誰に言ってんのよ」
「さっすが俺さまのロッティーちゃん!」
「誰がアンタのものよ誰が」
「でひゃひゃ!」
その花の名はゼロスがくれた小さな花。残念ながらそういう知識にうとい私はその花の名前を知らない。オルガやフィントさんに聞けばきっとわかったんだろうけど、なんだか聞く気がしなかった。面倒臭いとかそういうわけじゃないんだけど、本能的な直感とでもいうのだろうか。
その花は今、部屋の花瓶に生けてある。
「明日のお昼…か」
いくらなんでも急すぎる。頬杖をついてつぶやいた。
考える猶予すら、別れを惜しむ猶予すらあたえてくれないなんて。まあ、あたえてくれたところで特別ななにかを用意するわけでもないんだろうけど。
夜空に浮かぶ月をぼんやりと眺めながら、どう見送るべきか考えていた。
「行ってらっしゃい?」
ちょっと軽々しいかな。
「待ってるから…?」
うわあ…。そんなことを言ってる自分を想像するだけで鳥肌が立つ。これは私のキャラじゃない。可愛い女の子が言うもんだよ。うん。
どうしようかなぁ…。
「ロッティー。起きてる?」
フィントさんだ。
「どうしたんですか?こんな夜更けに…」
「ロッティーが悩んでるんじゃないかと思って」
「…テレパシーですね」
「ええ。テレパシーね」
少しの沈黙。の後に、私たちは笑い合った。
なんだかフィントさんってお母さんみたい。私が悩んでる時には真っ先に駆け付けてくれて、怪我をしたら例えそれがどんな小さな傷でも心配してくれる。ああでも「お母さん」なんて言ったらきっと怒られるだろうから「お姉さん」にしておこう。
椅子に腰掛けたフィントさんは「夜食にどう?」と、スコーンと紅茶を差し出していたずらっぽく笑った。
* * *薄々感づいてはいたが、フィントさんは色恋沙汰というものが大好きだ。自分のことはまったく語らないくせに他人のこととなると「それで?それで?」と、子供のように目を輝かせて続きをせかす。
…今がまさにその状況。どうやってこれを切り抜けるべきかスコーンを頬張りながら考えているんだけど、いい案はひとつも思いつかない。だのにフィントさんときたら次々に「こんなのはどう?」「それじゃあこれは?」と、提案してくるのだった。
「『私…あなたの帰りをいつまでもお待ちしております』なんてどう?」
「いや、それ私のキャラじゃないんで」
「んー…じゃあ、言葉じゃなくて行動であらわしてみるとか」
「行動…ですか」
「なになに?賛成してくれた?」
「そうですね…。それ、いいかもしれません」
「ハグ?それともキス?ロッティーからならゼロスさまはなんだってよろこぶと思うわ!」
熱く語るフィントさん。
…私、ちゃんと眠れるのかな。フィントさんが差し入れてくれた紅茶をすすり、ため息をついた。
to be continued...
(13.04.21.)
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