「ゼロス」


いない。


「ゼロス…」


いない。


「ゼロスっ…!」


…いない。

燃えるような紅は、見当たらない。



なきむしよわむし



最後にたどり着いたのはゼロスの屋敷。の庭。メルトキオ中を駆け回ってもいなかったんだから『灯台もと暗し』というやつだ。意味は…教えてもらったはずだけど忘れちゃった。でも確か、こういう時に使ったはず。
いつだっかかくれんぼの最中に「灯台もと暗しとは…考えましたわね!ロッティー!」と、セレスお嬢さまが嬉しそうに使っていたのを覚えている。


「神子さま!ロッティーです、お話したいことがございます!!」


声を張り上げてみたけど返事はない。聞こえるのは風に揺られて葉と葉がこすれあう小さな音だけ。夕暮れ特有のまばゆくあたたかい陽射しが木々を、花を、私を照らしている。


「…ゼロス…」


泣き虫のくせに格好よくて弱虫のくせに強がりで。そんなあなたのことが…好きだって。


「ゼロスのことが好きだって…ようやく認めたのに…!」


惚れた、なんて悔しいから言わなかった。言う勇気すらなかった。
…ホント、私ってオルガたちの言う通り素直じゃないんだなぁ。


「あ、れ…?」


どうして私、泣いてるの。泣き虫はゼロスのほうなのに。…おかしいな。涙がとまらない。
なんで。どうして。どうしてとまらないの。教えて。苦しいよ。助けて。
ゼロス――。


「…ったくもー、世話のやけるハニーだぜ」

「…え…」

「泣き虫なのはどっちよ。ん〜?」

「ぜ、ろ…」

「いつまでもガキのままだと思ってると痛い目みますけどー」


ゼロスは綺麗な蒼色を細めて不敵に微笑んだ。
…ちくしょう。悔しいけど格好いい。マーテルさま、神子だかなんだかしらないけどコイツに二物も三物も与えすぎです。それなら一つぐらい私に恵んでください。

…ってそうじゃなくて!顔が近い、顔が!


「ロッティーちゃん…」


ああもう、自分が美形だってわかってやってるんだからたちが悪い。まあ、そんなたちの悪いヤツに惚れた私も相当たちが悪いんだろうけど。
ゼロスの左手が頬に添えられる。いくら私でも、それがなにを意味しているのかわからないほど馬鹿じゃない。
綺麗な蒼色を脳裏に焼き付けて、ゆっくりと目を閉じた。

――どきん。

ゼロスの髪の毛が頬にあたってくすぐったい。

――どきん。

細い指が、頬を、唇をなぞってゆく。

――どきん。

…う、うううう…。…ま、間が持たないっ!緊張しすぎて時間が長く感じるよ!早く過ぎて!…っていうのもなんか違うけどごめん!ゼロス!


「やっぱ無理ィィ!!」


頭突き。を、かました。ええ、かましましたとも。世界の神子さまに頭突きする女なんてきっと私ぐらいだろうな。いつか頭突きと急所はダメだろとか思ったような気がするけど、今の私にはそんな余裕すらなかったらしい。
…あれ。予想していた「ゴンッ!」とか「バキッ!」とか痛々しい音がしないぞ。


「…?」

「ほい」


目の前に差し出されたのは、小さな花。


「んなこったろーと思った…。主人に頭突きくらわせる執事なんてテセアラでもロッティーちゃんくらいだと思うぜー?」

「だ、だって…恥ずかしい…」

「ま、そういう反応が楽しくてやめられねーんだけどよ。…無理すんな」


待ってるから。
そう言ってゼロスは笑った。

…ああ、私の大好きな笑顔だ。














to be continued...

(13.04.21.) 

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