「…ロッティー。あなたのせいで神子さまが危ない目にあったそうじゃない」
神子さま、あれから一度も登校なさってないのよ?あなたが目の前で怪我なんかしたから。
…ああ、おいたわしやゼロスさま!
神子さまになにかあったらどうするつもりだったの?幼なじみかなんだか知らないけど調子に乗るからよ。
…たいして可愛くもないくせに。
もう二度と神子さまに関わらないで!異世界の旅人どんなに嫌なことがあったって苦しいことがあったって過去を消すことは不可能だ。楽しいことよりも苦しかったことのほうが鮮明に残ってしまうなんて、ひとの記憶とはつくづく残酷な仕組みだと思う。でも、楽しいこともしあわせなことも、たくさんたくさん経験しているはず。
「…フィントさん!」
「あら、お帰りなさい。ロッティー」
「…その…私…」
大丈夫。大丈夫。何度もそう言い聞かせるけど足の震えは止まらない。でも、私が悪いんだもの。謝らなくちゃ。
「ごめんなさい!」
…え?
「ごめんなさい、ロッティー。私…お節介がすぎたわね。本当にごめんなさい」
「わ、私のほうこそ八つ当たりなんかしてごめんなさい!フィントさんは…私のことを思って言ってくれたのに…」
「ロッティー…」
「なのでフィントさんの気が済むまで殴るなり蹴るなり罵るなりしてくださって結構です!」
「え…?」
さあどうぞ!と、両手を広げればフィントさんの眉間にしわが寄った。すっごく訝しげな表情で私を見て(なぜ!?)それから…笑ってる…?
本人は笑いを堪えているつもりなんだろうけど、全然堪えられてません。よほどおかしかったのか涙を流して笑い続けるフィントさん。
ど、どこにそんな爆笑要素がありましたか…!?
「ホント、ロッティーって面白いわね。見ていて飽きないわ」
「それ、褒めてませんよね」
「そうね。どちらかといえばけなしているほうの意味だわ」
「…そこまできっぱり言われちゃうといっそ清々しいです」
「ふくれないふくれない」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でるフィントさんの手つきは彼女の仕事ぶりと同じく繊細だった。乱雑に見えて繊細だなんて…なんか、オルガみたい。
…ああでも、もう一人。もう一人いた。図太く見えて実はすごく繊細なヤツ。
ちらりと脳裏に浮かんだのは、燃えるような紅い髪。
「フィントさん!ロッティー!」
「どうしたの?そんなに慌てて…」
「大変です!神子さまが…ゼロスさまが、明日の昼頃に旅立つと!」
「旅…?」
なにそれどういうこと?なんでゼロスが旅に出なくちゃいけないの。わけがわからない。
ね、フィントさん。と、振り向けば、フィントさんは神妙な面持ちで私の肩をつかんだ。それから少しだけ考えるそぶりをして、話を切り出した。
いい?ロッティー。落ち着いて聞いてちょうだい。と。
「シルヴァラントから客人がきたっていう話はしたわよね」
「シルヴァラントの神子たち一行…ですよね」
「彼らの旅に、ゼロスさまが同行することになったのよ」
「え…」
「彼らがテセアラで勝手な行動をしないよう、監視役として神子さまが…」
なんで。どうしてゼロスが。監視役なら城の兵士にでもミズホの民にでも任せればいいじゃない。どうして。どうしてゼロスなの。彼が…ゼロスが神子だから?
最近はメルトキオ付近にも魔物が出現するようになったんだよ。旅に出るなんてそれこそ命の保証が出来ないじゃない。もしかしたら、そのシルヴァラントの客人たちに命を狙われるかも――。
「ゼロスっ…!」
to be continued...
(13.04.19.)
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