ガキの頃、セレスと近所に住んでいた二人の友人とでよく遊んでいた。屋敷の中でかくれんぼをしたり、庭で鬼ごっこをしたり、メルトキオを飛び出して遊ぶことも少なくなかった。
間もなく誕生日を迎える彼女にプレゼントを送ろうと、彼女の好きな紅茶を購入するために友人と出かけた。驚かせるつもりだった。喜ばせるつもりだった。
なのに、彼女を傷つける結果になってしまった。

…後悔だけが残る。


「…一生残る傷つくっちまうなんて…ホント、サイテーだよな」


雨とともに流れ出る赤が真っ白なシャツに染みを作っていった。止まれ止まれと願っているのに、それは彼女の傷口からとめどなく溢れてゆく。
どくどく。どくどく。怖くてたまらなかった。


「俺は…」


これはけじめなんて格好いいものじゃない。
ただの「逃げ」だ。


* * *


「ああでもイチャイチャするなら他のところでやってね。うっとうしいから」

「だ、だれがイチャイチャなんか…!」

「そんな愛されまくってるロッティーにひとつだけ忠告」


だれが愛されてるって。だれがイチャイチャしてるって。そんなのオルガの勝手な思い込みだよ。だって、私とゼロスは恋人同士でもなんでもないただの知り合い。…から主人(仮)と執事(仮)にはなったけど。
特別な関係なんかじゃ…。反論しようとしたけど、いつになく真剣なオルガの瞳に口をつぐんだ。


「想いを伝えるなら、早いうちがいいと思うよ」


そう言い残してオルガは去っていった。
…なにそれ。どういう意味?



はらはらうらはら



「ねぇロッティー」

「?なんですか、フィントさん」

「あなたも『シルヴァラント』って…名前ぐらい聞いたことあるわよね?」

「知ってますけど…それがなにか?」

「昨日、そのシルヴァラントから客人がいらしたそうよ」

「へぇ…」

「神子とそのお供の方らしいわ」


…神子?そっか。シルヴァラントにも神子がいるんだ。やっぱり神子って綺麗なのかな?
…って、なんでアイツの顔を思い出すの!?なんかすっごく悔しいんですけど。


「ロッティー、今…神子さまのこと考えてたでしょ」


――ガシャン!

ティーカップが砕け散った。


「っ…」

「あらあら…盛大にやっちゃったわねー」

「ご、ごめんなさい…!」

「大丈夫。なんとかしておくから心配しないで。それよりも…指、怪我したでしょ?」

「このぐらいなんてことないですよー。放っておけばそのうち治ります」

「ダメよ。出しなさい」

「…はい」


有無を言わせないこの圧力…さすがですフィントさん。でも、このぐらいの傷なんてことないんだけどなぁ…。もう、フィントさんてば心配性なんだから。子供が出来たら大変なことになりそうだよ。
しっかしフィントさんにしろオルガにしろ…読心術でも心得ているのだろうか。ゼロスに関することとなると恐ろしいぐらいに言い当てられるんですけど。


「ロッティーはわかりやすいのよ」


そうそう。オルガにもそう言われ…って、え!?また心読まれてる…!?


「いい加減素直になったらどうかしら。あなたが素直になればぜんぶ丸くおさまるのよ?」

「…フィントさんも、オルガと同じことを言うんですね」

「…ロッティー?」


素直になれたらどれだけ楽になるだろう。でも、楽になるのは私だけ。ゼロスは…ゼロスはきっと傷ついてしまう。またあの時のような顔をさせてしまう。そんなのは嫌。嫌だから…。


「放っておいてください!」


* * *


「で、屋敷をとび出してきたってわけか」

「うん…」


どうしよう。あんなことが言いたかったわけじゃないのに。フィントさんは私のためを思って言ってくれたのに。きっと怒ってる。
…どうしよう。嫌われたらどうしよう。


「『もう関わらないで』って、言われちゃったらどうしよう…!」

「…あのひとはそんな薄情なひとじゃないよ。目を見ればわかる」

「でも…」

「弱気なんて、らしくないんじゃないの?大丈夫。僕はロッティーのこと大好きだよ」

「…オルガ…」


そうだよね。弱気なんてらしくない。嫌な記憶はこの先一生忘れられないだろうけど、私にはオルガがいるから大丈夫。つらくても苦しくてもまずは自分が動かなきゃなんにも始まらない。
オルガの腕から抜け出して涙をぬぐった。














to be continued...

(13.04.18.) 

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