「ロッティー!ロッティー!しっかりして!今、セバスチャンを呼んだから…!」


もう大丈夫だから…!男の子は泣きじゃくりながら必死に私を揺さぶる。ぼろぼろ零れる涙を拭おうと手を伸ばしたら身体中に鈍い痛みが走った。
…ああ、あの時の夢か。随分昔のことなのに、身体はしっかりと痛みを、男の子の表情を記憶している。

ほら、やっぱり泣き虫じゃない。

でもね、私はあなたに笑っていてほしいの。
…ああ、でも作り笑顔は嫌よ?私、張り付いたようなあれが一番嫌いなんだから。無理して笑う必要はないけど、出来ることなら笑っていてほしい。あれ、なんか矛盾してるね。
でも聞いて。私はあなたに――。

セバスチャンさんを連れてきてくれたのはセレスお嬢さまとオルガで、ゼロスはその間ずっと呼びかけてくれたんだっけ。




まっすぐ伝えられたら



あれからゼロスは私に近づかなくなった。というより私がゼロスを避けている。なんか…近くにいちゃいけないような気がして。
まあ、屋敷の仕事も大分慣れたしフィントさんたちとも仲良くやっているから、文句を言われることもないだろう。


「ロッティー。お客さまですよ」

「ありがとうございます。フィントさん」


休憩中だというのにフィントさんは本当によく働く。細やかな気配りは出来るし掃除家事洗濯はどんとこいだ。それにひきかえ私の仕事ぶりといったら。はぁ…。やめよう。虚しくなるだけだ。
しかしゼロスでなく私に会いに来る客人とは一体誰だろう。まさかとは思うが…


「やっほー。久しぶりだねロッティー」

「オルガ…!?」


そのまさかだった。


* * *



フィントさんは客人用の部屋に案内してくれたけど、オルガごときをそんな対応で迎えることもない。
というよりここじゃ安心して話が出来ないと思って私が寝泊まりしている部屋に案内した。オルガは部屋に入るなりベッドに腰掛け、子供のように足を投げ出した。


「どう?仕事は順調?」

「んなわけないでしょ。…わかってるくせに」

「いい加減素直になればいいのに」

「はい?」

「ロッティーも神子さまも。あーあ、昔は可愛かったのになぁ…」

「悪かったわね。でも、昔っからひねくれてるあんたにだけは言われたくないわ」

「ひねくれ者、か…。最高の褒め言葉だね。ありがとう」


だから、その爽やかな笑顔が腹立だしいんだってば。


「…で。なにかあったの?」

「…べつに。なんにもないわよ」

「ふーん」

「信じてないでしょ」

「うん」


こいつ私が理由話すまで絶対帰らないぞ。

私も相当な頑固者だと思っていたけど、オルガのそれは私を遙かに越えている。だからなにをしたって折れるのはいつも私。
オルガ、中身は結構お子ちゃまなんだよね。


「気にしなきゃいいのに」

「…なにを」

「周りの目とか昔のこととか、その他諸々」

「そんなの…」

「だったらなんで泣きそうな顔してるの」


ああもう、どうしてこうも目ざといかな。
そう言って悪態をついたけれど、オルガはにっこり微笑むばかりだった。


「ほんっと、わかりやすいよねロッティーは。そのままぜんぶ神子さまに伝えればいいのに」


…そんなこと、出来るわけないじゃない。














to be continued...

(13.04.16.) 

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