「はぁ…」

「どーしたのよ」

「どーしたのって…。よくそんな平気でいられるわね。気持ち悪くないの?」

「別に〜?」

「なにその含み笑い…」


ゼロスの買い出しに付き合って…いや、付き合わされたといった方が正しいだろう。耳を塞ぎたくなる黄色い歓声に耐え、買い出しを済ませて帰路についたその時だった。なんの前触れもなく雨が降り出した。
すぐに止むだろう(もしくは本降りになる前に屋敷に戻れるだろう)と思っていたのだが…その考えは甘かったようだ。
雨だけにとどまらず、雷までもが鳴り出した。

髪の毛が、服が、肌に張り付いて気持ち悪い。ロングスカートが水分を含んだせいで重みを増している。
ああもう、ついてないなぁ…。


「はぁ…」

「そんなにため息ついてると、しあわせが逃げちまうぜ〜?」

「はいはいわかって分かってます。…はぁ…」

「…わざと?」

「なにが…っ」


しまった。やつが容姿端麗だということを忘れていた。くそう。どうしてこのタイミングで向いてしまったんだろう。

何気ない行動でもやつがやるとなぜか様になる。…悔しいけど。
雨に濡れて張り付く髪の毛を鬱陶しそうに掻き上げる動作に…その、不覚にもだな…。


「見惚れちゃった?」

「!」

「そーかそーか見惚れちゃったかー!俺さまってば罪なおと…ごふっ」

「雨、止んできたみたいですよ。今のうちに帰りましょう」

「…否定はしないのな」

「なにか?」

「なんでもありませーん」


そう言いながら、大きな紙袋を手渡された。私が持っていたはずの比較的小さな紙袋はゼロスの右手に握られている。
「こーんなでっかい荷物、女の子に持たせるわけないでしょ〜」とかなんとか言ってた気がするのは私の勘違いか。そうか、勘違いなんだな。
まあ、立場上これが正しいんだけどなんていうか…まあいいや。

屋敷に着いたら着替えなくちゃ。




(頑張れ頑張れロッティーちゃーん!)
(くっ…!こんなやつに一瞬でも見惚れた自分が悔しい…!)


2012.05.23. 

×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -