「明日、ちょっと付き合ってくんない?」

「…はい?」

「買い物」

「はあ…」


仕事があると言い訳しても、今の主はゼロスなのだ。どのみち付き合わされることになる。
まあ、買い物ぐらいなら…。

軽々しくそう思ったのが間違いだったのだ。



似ても似つかない二人組



くさい。鼻がひん曲がりそうだ。どうして貴族の令嬢たちはこんなにもきつい匂いを好き好んで身体につけるのだろう。振りまかれるこちらの身にもなってもらいたい。
それと、こんな至近距離できゃあきゃあわめかないでもらえませんかね。耳が痛いんですけど。

なんて言えるわけもなく、程よく愛想を振りまきながらゼロスの後についてゆく。
ったく…買い物に来たはずなのに、なんなんだこの待遇は。


「紅茶をお探しですか?ゼロスさま」

「でしたらこちらの…」

「いいえ!ダージリンはいかがでしょう?私も愛飲しておりますの!」

「ゼロスさまにも気に入っていただけますわ!」


…うるさいなぁ。紅茶の種類ぐらい本人に決めさせろっての。
それに、話を聞いている限りゼロスの好きな紅茶を探すんじゃなくて、ただ単に自分の好みを押し付けてるだけじゃん。そんなにゼロスと一緒の紅茶が飲みたいなら直接聞けばいいのに。ああもう、まどろっこしいなぁ。

と、二人の令嬢が私の前に歩み出た。


「あの…」

「なにか?」

「あなた、オルガさまの執事よね?どうしてゼロスさまと一緒にいるの」

「…ミモザちゃん!その言い方は失礼だよ」

「じゃあ、もじもじしてないでさっさと聞きなさい。早くしないと私が言うわよ」

「そ、それはダメ…!」

「…あのー…」


話の内容がまったく見えないんですけど。聞きたいことってなんですか、お嬢さん。早くしないとミモザさんのイライラが爆発しそうですよ。
しかしなんていうか…正反対の二人だなぁ。もじもじしている女の子は小柄で可愛らしくて内向的で、片やミモザさんといえば背が高くて美人で(多分)言いたいことは遠慮なく言うタイプだ。

うーん…。これが俗に言う「でこぼこコンビ」っていうやつ?


「オルガさまの好きな紅茶って…なんでしょう?」

「…はい?」

「執事のアンタなら知ってると思ってさ。ごめんねー、この子直接聞く勇気ないみたいだから。あたしの前だとおしゃべりなんだけど」

「ミモザちゃん!」

「ああ、ごめんごめん。…で、執事さん。オルガさまの好きな紅茶、ご存じかしら?よければ教えてほしいのだけれど」

「お願いします!」


* * *


小柄な女の子はシャルロちゃんというらしい。オルガの好きな紅茶を教えてあげると「ありがとうございます!」と花のような笑みを浮かべた。
するとミモザさんは満足そうにシャルロちゃんの頭を撫でて「よかったね」と微笑んだ。この二人、友達というよりは姉妹みたい。
本人たちの知らないところでこっそりファンクラブとか設立されてたりするんじゃないかな。むしろ私が入りたいぐらい。
貴族の令嬢って、香水臭いひとばかりじゃないのね…。ああ、そういえばオルガも香水は嫌いだって言ってたような。


「ロッティーちゃん、なんかご機嫌でない?」

「んー?別に、なんでもありませんわ」

「…そう?」

「そうそう」

「…なぁ」

「…はい?」

「これから暇?」


いやいやさすがに屋敷の仕事しないと。


「紅茶のおいしいお店、知ってるんだけどなー」


にやにや笑いながらゼロスが言った。
…ち、違うよ?紅茶につられたとかそういうわけじゃないんだからね。ほら、たまには息抜きも必要だから!














to be continued...

(12.05.23.) 

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