第2話 dislike [ 4/4 ]
大好きな姉さま。 いつだって眩しいぐらいの笑みを浮かべていて、ボクの心はそれを見る度に癒される。
まるで治癒術を唱えてもらったかのような、あたたかな光がふんわりと広がるんだ。
「ミトス」
「何?姉さ…」
自身を見つめる色鮮やかな双眸に、ミトスははっと口を噤んだ。 けれどディアナがそれに気付かない訳がなく、彼女はその大きな瞳でミトスを見つめる。
「ねぇ、さっきから何度も何度も『姉さま』って呟いているけど、それって…」
「キミには関係ない」
「私の名前はディアナ。『キミ』なんて名前じゃないわ」
「…分かったよ、ディアナ」
ため息混じりにミトスが言えば、ディアナはそれ以上詮索することなく背を向けた。 綿毛のような金糸がふわりと揺れるが、ミトスの視界には映っていない。
何故なら、彼の意識はディアナの「声」に向いていたから。
「ミトス」
彼の名前を呼ぶのは、姉のマーテルなのかはたまたディアナなのか…。 ミトスは、小さくなっていく背中をぼんやりと眺めていた。
第2話 dislike
好きなものは「好き」と言い、嫌いなものは「嫌い」と言う。 面白くなければ笑わないし、腹が立たなければ怒らない。
小さな頃はそれでよかった。 自分の思うがままに行動していれば。
けれどある日、ディアナが一人の女の子のことを「嫌い」だと言った。
「私、あなたとなんか仲良くなりたくない」
「なっ…」
「だって、あなたは私のことが嫌いなんでしょう?だから、私もあなたのことが嫌い」
差し出された右手をそのままに、ディアナは女の子を見据えた。 行き場のなくなったそれがわなわなと震え、空を切る。
渇いた音が、教室中に響いた。
「…おかしい」
傷なんて少しも残っていないのに。 だけどあの時、私の頬は確かに「痛かった」
「…ディアナちゃん?」
「…ううん。何でもない」
《天空都市 ウィルガイア》ディアナの部屋が用意されたここは、心を失った天使達が生きている。 生活している、ではなく、ただ…生きている。
嬉しいことも悲しいことも忘れ、途方のない年月を過ごすだけの日々。
「…ディアナちゃんは…」
「………」
「いや、やっぱり何でもねぇ」
「…そう」
どうして両親がいないのか。どうしてあんな豪勢な部屋で生活していたのか。また、その資金はどこから生まれるのか。 彼女の素性は謎に包まれたままだ。
誰だって、踏み込んで欲しくない過去がある。 彼自身が「そう」だから、彼女に対して疑問をぶつけることが出来なかったのかもしれない。 ゼロスは自嘲的に微笑み、部屋を後にした。
to be continued...
(10.12.04.)
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