「……届かない」
身長の低いクレアは、どんなに背伸びをしても窓の上の縁に届かなかった。
否、この大きさの窓は余程の巨体でなければ届かないだろう。
「むぅ…届けぇっ!」
爪先で立ち、手を伸ばしたり跳んだりしてみるものの、やはり届かない。
しかし次の瞬間、身体がふわりと浮き上がり、縁にまで手が届いた。
「…やったあ!このまま右に………え?」
クレアはごく一般の人間。
宙に浮くことや、急な成長などは不可能だ。
だが、届くはずのない窓の縁に手が届いている。
(お、落ち着け私…こういう時はまず深呼吸…)
両手を大きく広げ、ゆっくりと深呼吸する。
そして、窓に映る自分の姿に驚愕する。
「ぜっ、ゼロス様!?」
「お掃除お疲れ様〜♪」
そう言ってゼロスはクレアを見上げ、クレアはゼロスを見下ろす。
――肩車をされていた。
クレアはその体勢のまま凍り付き、ゼロスは微笑を浮かべる。
「…はっ!ゼロス様、お、降ろして下さい!」
「何で?」
「メイドが主様の肩に乗るだなんて…」
「だってクレアちゃん、届かないんでしょ?」
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