年に一度の「あの日」だというのに、この男は。
雰囲気もデリカシーも、あったもんじゃあない。


「チョコちょうだい」

「嫌」

「えー。なんでよ」

「面倒臭い」


そう。面倒臭いのだ。
材料を買ってきて、チョコレートを砕いて、湯煎で溶かして…そこからも色々と面倒臭い作業をして、冷やして固める。

チョコレートぐらい、屋敷のシェフにでも作らせたらいいのに。
そうしたら「おいしい」なんて言葉では形容出来ないほどのものが出来上がるに違いない。


「私なんかが作らなくても、他の女の子達からたくさん貰うじゃない」

「うん」

「今も両手に抱えてるし」

「ハニー達の愛を平等に受け取るのが紳士の役目ですから。だから、チョコちょうだい?」


なにが「だから」だ。意味が分からない。
こんなにたくさんのチョコレート、食べずに処分しちゃうんでしょ?

そんなのは、嫌だ。

だって、チョコレートと一緒に渡した「気持ち」も捨てられちゃうみたいじゃん。


「…捨てねえよ」

「え?」

「んー?いつになったらクレアちゃんは俺さまの為にチョコレートを作ってくれるのかなあって」


へらへら笑うゼロスのこの顔は、苦手だ。
なんだか嘘をついているような気がして。

だけど、さっきの言葉が本当なら。
私の気持ちを捨てないでいてくれるのなら。

「特別」だって、想ってくれるのなら…。


「気が向いたら、そのうち作るかもね」




(素直になれないだけ)


2011.02.22. 


thanks:Mr.majorca

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