ふわりふわり、風に乗ってやってくる柔らかな香り。君は、まるで――。
「なぁ、クレア」
「んっ?」
ロイドが名前を呼ぶと、鮮やかな金糸を靡かせてクレアが振り向く。優しい花の香りが鼻を擽る。
「お前っていっつも花の匂いがするよな」
「…私、小さい頃にお花を食べちゃったから」
「えっ!そうなのか?」
ロイドが瞠目すると、クレアは口許に手を当ててくすくすと笑い出す。
「ふふっ…。そんな訳ないでしょ!」
クレアが声を弾ませると、流石のロイドも気を悪くしたのか、ぷくっと頬を膨らませた。
「…ごめんごめん。あまりにもロイドが可愛いからさ」
「何言ってんだよ。可愛いのはクレアだろ?」
ロイドは小首を傾げて、深い意味もなく言った。しかしクレアは、その真っ直ぐ過ぎる言葉に頬を赤く染める。
「か、可愛いって…」
恥ずかしさから目を逸らしたクレアの髪を一房掬い取り、その香りを嗅ぐ。
「花の匂い…。クレア、食べたら美味そうだな」
「た、食べっ……!?」
慌ててロイドの方を向くと、大きな鳶色が真っ直ぐにクレアを捉えていた。
「ろ…いど……?」
「…なんちゃって!」
そう言って、ロイドは弾けるような笑みを浮かべた。クレアは暫く何が起こったのか理解出来ず放心していたが、徐々に事態を飲み込んだ。
「…ふ、ふんっ!ロイドなんかもう知らない!」
踵を返そうとロイドに背を向けた。すると、後ろから抱き締められる。
「さっきのあれ…冗談だと思ったのか?」
「え……?」
振り向いたクレアの顎を掬い取り、ロイドは不敵に微笑んだ。
好きとか嫌いとか理解不能
2009.10.29.
thanks:
Mr.majorca