鬱蒼と生い茂った深緑に、ひっそりと佇むお家。

ここにはロイドの義父であるダイクおじさまとロイドが二人で暮らしている。私のお家も村の外れにあって、よく学校帰りにロイドのお家にお邪魔するんだ。

ロイドがノイシュを小屋に預けている間、私はダイクおじさまに挨拶に向かった。


「…綺麗なお花ですね」

「ん?…ああ、クレア嬢ちゃんか。どうしたんでい?」


ダイクおじさまはゆっくりとこちらを振り向くと、にっこりと微笑んだ。

如雨露の先から零れ落ちた滴が、花弁を伝って地面に吸い込まれる。
いつ来ても綺麗な花壇だなとは思っていたけど、ダイクおじさまが毎日欠かさずお手入れしてたんだ。


「…嬢ちゃんは、この花が気になるのか?」


そう言ってダイクおじさまは色とりどりのお花の中から、私が熱心に見つめていた一本のお花を指差す。

白くて小さな花びらがとても可愛らしい。

周りのお花の方が大きくて立派なはずなのに、私はそのお花が一番美しく、気高く咲き誇っていると思った。


「この花はな、ロイドが小せぇ頃に種を拾って来たんだ」

「…ロイドが、ですか?」


訊くと、ダイクおじさまはこくりと頷いた。

ロイドは学校帰りにイセリアの森で咲いていたこのお花を見つけ、種を持ち帰ったらしい。
なんでも、普段通らない道に咲いていた上、先に気付いたのは甘い香りに釣られたノイシュなんですって。


「…なんて言うお花なんですか?」

「俺も長く住んでるが、この花は見たことがねぇ。…済まねぇな、力になれなくて。詫びと言っちゃあなんだが、ゆっくり見ていくと良い」


ありがとうございます、私がお辞儀をすると、ダイクおじさまは如雨露を持ったまま玄関へと向かった。

そう言えば、そろそろノイシュのご飯の時間だったかも、なんて思いながら見事に細工された岩で囲まれている花壇(恐らくダイクおじさまお手製だ)の目前でしゃがみ込み、一輪の花に目を遣る。

すると頭の上にぽん、となにかが置かれた感触。


「あっ、ロイド!」

「遅くなってごめんな。晩飯の準備がなかなか終わらなくてよ…って、なに見てるんだ?」

「このお花を見てたの」


私がそれを指差すと、ロイドは特に興味なさげに花を見る。
そして急になにを思い出したのか「ああ!」と手を打って、再びお家の中へと駆けて行った。

一体どうしたんだろう、と考える間もなく小さな鉢植えを抱えたロイドが戻って来た。
花壇の近くにしゃがみ込み、手袋を外す。

空の鉢植えの中に入っていたらしいスコップでおもむろにお花の周りを掘り始めた。


「あ、あの…ロイド?」


名前を呼んでもロイドは反応せず、お花の周りを掘り続けるばかりだ。
私はもう一度名前を呼ぼうとしたけれど、なんだか楽しそうなロイドの横顔に口を噤んだ。

どうやらロイドは周りのお花や根っこを傷付けないようにして掘っているらしい。


「よし!後は土を入れれば…」


漸くお花を傷付けることなく地中から根っこ諸共掘り出したロイドは鉢植えに土を入れ、お花を植え替えた。
花壇の近くに凭れさせてあった粉末の肥料を慣れた手つきでぱらぱらと撒いてゆく。

両手で鉢植えを抱えロイドはこちらを振り返った。


「これ、クレアにやるよ」

「えっ…?」


言葉と同時に手渡された小さな鉢植え。

なにがなんなのか訳が分からなくて、私はよっぽど間抜けな顔をしていたんだろう。
布巾で土を拭ったロイドの手が再び、私の頭にぽすりと音を立てて乗っかった。


「この花、クレアにプレゼントしようと思って種を持って帰ったんだ。白くて細くて、でも他の花に負けないぐらいに力強く咲いてる姿が似てるだろ?…あと、小さいところとか」

「小さいは余計ですっ!でも…ありがとう。大切にするね」

「おう!よろしくな」


私は小さな鉢植えをそっと抱き締めた。
ロイドの笑顔には不思議な力があるの。見ているだけでなんだかこちらも楽しくなってしまうような、不思議な力。

私は、まるで太陽のような笑顔のロイドが――だいすきです。




(このお花、なんて言う名前なんだろう…)
(明日、リフィル先生に聞きに行こうぜ!)
(うん!ありがとう、ロイド!)


2009.11.22. 


thanks:Mr.majorca

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