コレットの心を取り戻す為テセアラへ旅立った私達は、そこで二人の仲間を迎えた。

まるで今のコレットのように感情表現に乏しい少女、プレセアと天使さ…じゃなくてテセアラの神子、ゼロス。
この二人が加わっとからというもの、みんな明るくなったような気がする。
…と言うよりは「うるさい」って表現した方が正しいのかな…?


「クレアちゃーん!」

「にゃあっ!」


がばっ!という効果音と共に、クレアの背後からゼロスが抱き付く。
彼はコレット不在となるといつもこの調子なのだ。

何故不在を狙うのかというと、いつかちょっかいを出した時にチャクラムを投げ付けられ、危うく首が切れるところだったから。

本人曰く、軽く頸動脈を掠ったらしい。
その様子を見たリフィル先生は、コレットの私に対する防衛反応がロイド達の比ではないと解説する。


「ロイドくんとガキんちょが俺さまのこと苛めるぅ〜!」

「なっ…!おいゼロス!クレアから離れろ!」

「そうだそうだっ!アホがうつっちゃうだろ!」


ゼロスを追い掛けて来たロイドとジーニアスは、クレアの首に回された手を剥そうと躍起になる。

…うーん。明るくなったのは嬉しいことなんだけど、どうして喧嘩しちゃうんだろう…?

頭を捻ってあれこれ考えていると、遠くからリフィル先生の声が聞こえた。
周囲の声が大きいからハッキリとは聞こえないけれど、どうやら私の名前を呼んでいるらしい。

相変わらず離れようとしないゼロスを引き摺りながら、リフィル先生の元へ向かった。


「何でしょうか、先生」

「…。お使いを頼まれて欲しいのよ。お願い出来て?」

「はい!分かりました」


リフィルはクレアに撓垂れ掛かるゼロスを一瞥し「あまり迷惑を掛けてはいけなくてよ?」と言い聞かせる。
それに対して返ってきた子供のような返事に溜め息をつきながら、クレアに小さなメモ用紙を手渡した。


「それに必要なものが全て書いてあるわ。よろしくね、クレア」

「はいっ!」


クレアがにこりと微笑むと、リフィルは「ありがとう」と言い残してその場を後にした。

癖のない字で記された内容に目を滑らせている途中、突如メモ用紙が視界から消えた。


「ふぇっ?」

「ふむふむ…。これだけの量となると荷物持ちが必要だな。よーし、ここは俺さまが手伝って…」

「買い出しなら俺と行こうぜ!ゼロスなんかと一緒に行かせられるかよ」

「…ロイドくん。俺さまなんか、ってどういう意味よ」

「だってお前、どさくさに紛れてクレアにちょっかい出す気だろ!」


あうぅ…二人共、どうして怒ってるのかな?私、喧嘩は嫌だよ…!

何とかして二人を宥めようと思考している最中、服の裾を引っ張られた。
唇の前で人差し指を立てたジーニアスが、小声で囁く。


「…ボクと買い出しに行ってくれたら、二人共仲良くなるよ?」

「…ほんと!?」

「うん。だから二人に見つからないうちに…」


口八丁手八丁でクレアを言いくるめ、返事を待つことなく走り出すジーニアスだったが、逸早くそれに気付いたゼロスが素早い動作でクレアの腰に手を回し、ぐいっと自らに引き寄せる。
その勢いでジーニアスは転倒し、クレアはゼロスの腕の中に収まった。


「だーめっ。クレアちゃんは俺さまと一緒に行くの。…そうだろ?」


そう言って細められた蒼い瞳が、真っ直ぐに私を見つめる。

…目が、離せない…。

すると頬に手を添えられ、顔が近付いて…ん?
こ、これってもしかしなくてもいつぞやと同じ状況…!?ま、また耳を噛まれるのは無理!


「ごめんねゼロスっ!」

「へ?」

「光よ――フォトン!」


クレアの足元に魔方陣が出現すると、収束する光がゼロスを捕縛した。

その隙に腕の中から逃れたクレアは目の端で揺れる金糸を捉え、その人物の元へと走り出した――。




(いっ、行こっ!コレット!)
(………)
(コレットが相手じゃ、敵う訳ないよな…)
(…うん。色んな意味でね…)
(荷物持ちの必要もなし…か)


2010.01.07. 


thanks:Mr.majorca

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