「まだ降ってる…」
バイトもなくて学校もお休み、久しぶりにショッピングを楽しもうと予てから計画していた今日、クレアは窓の外を眺めて盛大な溜息を漏らす。
天気予報になかった、突然の大雨。
梅雨という季節上仕方がないのかもしれないけど、何も今日じゃなくてもいいじゃない。
「むー…。今日は一日中引き篭ってやる!」
我ながら何とも些細な抵抗だとは思うけど、こうなったらとことんまで貫くことに決めたもんね!
ふて寝しようとベッドにダイブした瞬間、小さなノック音が部屋に響いた。
「…どうぞ」
低反発の枕に顔を埋め不機嫌さを滲ませた声でそう言えば、トレーを手にしたルカが入って来る。
彼女がこの家にやって来て、今日で一週間が経つ。
絶対に反対されると思っていた共同生活も、変なところで物分かりのいい両親は快く迎え入れてくれた。
「マスター、今日はお母さまに紅茶の淹れ方を習いましたの。宜しければ一緒に…」
「いらない」
今日は色んなお店を巡ってルカの私服を見立てるんだって、約束したのに。楽しみに、してたのに…!
雨なんか…大っ嫌い!
そんな私の心境を読み取ったのか、ルカが絶妙なタイミングで私の名前を呼んだ。
「クレア」
ルカと出会ったその日「友達なんだから名前で呼んで」とは言ったものの、彼女の真面目な性格からか、一度も「クレア」と呼ばれることはなかった。
しかし、今、ルカの口から私の名前が。
「雨の日の楽しみ方、ご存じですか?」
「………」
むすっとした表情のまま枕から顔を離した私は、いつの間にか目と鼻の先にあったルカの顔に思わず身じろぐ。
「…る、ルカ…?」
真っ赤になった顔のままルカを見上げると、彼女は人差し指を唇に宛てて「静かに」という合図を送る。
無言で頷くと、短いブレス音が耳に届いた。
「…!」
美しいアルトが心地好い旋律を奏で始める。
――大好きな、ルカの歌。
彼女の歌を、優しさを真っ直ぐに受け止めて、私はベッドから飛び降りた。
鏡よ鏡よ鏡さん、世界で最も美しいのは貴方よね?
(でも、今度のお休みは一緒に出掛けようね!)
(…ふふっ、勿論ですわ、マスター)2010.07.04.
thanks:
Mr.majorca