「もう寝ちゃうの?」


疲れではっきりしない意識を夢の世界から呼び戻すと、自身が眠るベッドの縁に頬杖を付き、寂しそうに顔を歪めるゼロスに気付く。


「…うん…。明日、早いから…」

「俺さま、まだ眠くないんですけど」


構ってくれと言わんばかりの低く甘い声が、耳元に吹き込まれる。


「…ごめ、ん…。今日は…無理…」


『着信音さん』という新しい機能が搭載されている携帯電話に機種変更してから、毎日がこんな感じだ。

くるくると変わる表情に絶えることのない会話。ゼロスがやって来てから、一日一日がとても充実している。

ふと、私の髪を梳く細い指が視界に映った。


「…ゼロ、ス…?」

「…クレアちゃん。夜のお楽しみはこれかぎゃああああああ!」


至極真面目な表情で言葉を続けるゼロスに「おやすみ」と短く返したクレアは、慣れた手つきでディスプレイを回転させる。

すると、タッチパネルの画面が起動すると同時にぐるりと捩れるゼロスの身体。

『着信音さん』は携帯電話に宿る妖精みたいなもので、ゼロスの動きは携帯電話の動きに準じている。

本人によると「ある程度の距離ならば自由に動くことが出来る」らしいが。


「…クレアちゃ、ん!さ、流石の俺さまも、このっ体、勢は…!」


必死の呼び掛けも虚しく、長い睫毛に閉ざされた双眸が現れることはなかった。

無防備に眠り続けるクレアの姿に、ゼロスは思わず苦笑を漏らす。


「これじゃあ襲われても文句言えねぇぜ?…なぁ、クレアちゃん」


2400

(…も、食べ…ら…な、い…)
(まー、幸せそうに眠っちゃって…)


2010.07.20. 


thanks:Mr.majorca

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