彼女には不思議な癖がある。危ないからほどほどにしなさいとリフィルに注意されても、ついやってしまうのだという。
前をゆくロイドたちの背中を見つめたかと思えば、振り返ったコレットと目があってにこりと微笑みあう。一行の最後尾をつとめるのはゼロスとクレアだ。
クレアはふと歩調をゆるめ、ゼロスの少し後ろを歩く。ゼロスは、魔術を得意とするクレアが接近戦に向かないことを熟知した上で、彼女の「やりたいこと」を邪魔しないよう斜め前を歩いた。
どこで魔物が飛び出してくるか分からないから、周囲の気配に注意しながらクレアに問うてみる。
「…なあ」
「なあに?」
「そこからだと、なにが見えるんだ?」
先頭のロイドたちと談笑するでもなく、しいなと夕飯の話をするでもなく、わざわざリフィルに怒られてまで彼女はなにを見ているのだろう。ゼロスはそれが気になって仕方がなかった。
ちょこんと首を傾げてから、うーんと考える素振りをして、少しだけ照れくさそうに彼女は笑った。
「ここにいるとね、みんなのことを『ああ、好きだなあ』って思うの」
仲間たちが楽しそうに笑いあう姿、遠くを見つめる仕草、頼もしい背中、なにもかもが好きなのだとクレアは言う。
輪の中の一行とそこから外れた自分自身――客観視、とでも言うのだろうか。
ああ、だからあんなに嬉しそうだったのか。
何度か気づかないふりをしてクレアの様子を一瞥したことがあった。その度に彼女は目を細め、しあわせそうに微笑むのだ。
「イセリアにいた頃もね、よくこうしてロイドやコレット、ジーニアスの後ろ姿を眺めてたの」
(それでリフィルさまのあの注意の仕方、ね…)
「あの時と違って、いつ魔物が飛び出してくるか分からなくてよ」リフィルの言葉が脳裏に浮かぶ。
昔っからの癖ってことか。
「ロイドと楽しそうにお話ししてるコレットが好きで、コレットの話を聞いているロイドの横顔が好き。ジーニアスもリフィル先生も、しいなもプレセアもリーガルさんも…」
小走りでゼロスの隣に並んだクレアは、彼の蒼色を見つめてにこりと微笑む。
「…ゼロスも」
少しだけ特別な気がしたのは、ただの自意識過剰だろうか。
「みんなみんな、だいすきなの」
みんなのことを好きでいられることが嬉しいなあって。みんなに出会えてほんとによかったなあって。
そう思うんだ。
ゼロスはクレアの真似をして半歩後ろに下がってみた。楽しそうな声、様々な表情、頼もしい後ろ姿。過ごした時間が長い訳ではないけれど、彼らの後ろ姿を眺めて「頼もしい」と思えることに驚いた。クレアほどではないが、似たような感情を抱いているのかもしれない。
(こりゃまた随分と感化されちまったな…)
額をおさえ、ゼロスは小さく肩をすくめた。
それを見たクレアは、ふふ、と、愛おしそうに微笑んだ。
20190501
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誰花