「ぜろしゅ、おはよ!」


にっこり笑って、ゼロスの頬をぺちぺち叩くクレア。寝ぼけまなこのゼロスは、うーん…とだけこたえて再び目を閉じた。その反応が気に食わないのかクレアはぷくっと頬を膨らませ、先ほどよりも勢いよくかつ高速でゼロスの頬を叩く。

ぺちぺちぺち。
ぺちぺちぺち。
てしてしてし!

両の手を駆使して交互に叩く。右、左、右、左、右、と見せかけて左を二発。リズムに乗るのが楽しくなってきたのか、クレアはきゃっきゃと声を上げていた。


「痛い!痛いってばクレアちゃん!」

「ぜろしゅ、起きゆの〜!」

「だー!もう、わかったわかった!起きるから!」

「ん!」


ゼロスが勢いよく上体を起こすと、クレアは目を細めていししと笑った。表情が、感情がくるくる変わる子だとは思っていたが、なんだか今日はいつも以上にめまぐるしく変わっているような気がする。
ゼロスの上から退くと、ぴょん!という可愛らしい音がした。


「クレアちゃん…?」

「ん?」


大きな瞳をぱちくりさせて、ゼロスを見上げるクレア。なにかがおかしいと違和感を覚えていたゼロスだったが、今この瞬間、違和感が確信に変わった。
上体を起こしているゼロスよりもクレアの方がはるかに小さい。隣を歩いていて身長差を感じることはあるけれど、ここまでではなかったはずだ。


「ち、縮んでる…!?」


* * *


皆の待つ広間では、朝早くから起きていたのであろうロイドたちがソファに腰かけていた。彼らは慌てるでもなくなんでもなく、小さくなったクレアと楽しそうに遊んでいた。
リフィルの見解によると、原因はわからないが身体に悪い影響を及ぼすものではないとのこと。

いや、だからって状況飲み込むの早すぎやしませんか。ロイドくんに高い高いされて、コレットちゃんに絵本を読み聞かせてもらって、おいちょっと待てよガキンチョに至ってはおんぶなんてしてやがる…!小さくなった本人が一番楽しそうにしてるけど、もし戻らなかったらどーすんのよ!

頭を抱えるゼロスの隣で、プレセアがぽつりと呟いた。


「あんなにはしゃぎ回るクレアさん…初めて見ました」

「まあ…」


そりゃ子どもだからな。声には出さず、心の中でそう続けた。


「ゼロスくんが下りてくるまで…大泣きしていたんですよ」

「あんたが部屋にいるって言ったら、泣きながら『起こしに行く』って」

「よほど愛されているのだな」


セバスチャンお手製の「戸棚のケーキ」と紅茶を嗜みながら、しいなとリーガルがプレセアに続いた。

ロイドくんたちはロイドくんたちで能天気だし、おっさんたちはおっさんたちでどうしてこうも恥ずかしいことをさらっと言えちまうんだ。


「あのね!ケーキ、おいしかったの」

「そう。それはよかったわ」

「ケーキ、おいしかったの…」


じっと見つめる先にはリフィルのケーキがあった。クレアがなにを言いたいのか察したリフィルは読んでいた本を机に置いて、代わりに銀色のフォークを手に取った。ケーキの上の大きな苺をすくい取り、フォークを持っている手とは逆の手を添え、彼女の口元へ運んだ。
するとクレアは苺と同じぐらい頬を真っ赤に染め、ぱくり。と、ひとくち。リフィルはにこりと微笑み、クレアは弾けるような笑顔を見せた。


「てんてー!ありがとー!」


リフィルに頭を撫でられて気持ちよさそうにしているクレアだったが、盆を持ったセバスチャンが現れるなり彼女の意識はそっちへと向いた。なぜなら盆の上にはケーキが乗せられているから。
その様子を確認したセバスチャンがやわらかく微笑み、絶妙のタイミングでゼロスの前に差し出した。ててて、という可愛らしい効果音と共にケーキにつられてゼロスの正面にやってくるクレア。
ふわふわのスポンジには色とりどりのフルーツが挟まれていて、白いクリームできれいにコーティングされている。中央に乗せられた大粒の苺が、きらりと輝いた。


「ケーキ…」


リフィルとのやり取りを一部始終見ていたゼロスはフォークで一口分を切り分け、クレアの口元へ運んだ。ぱあああと目を輝かせるクレアだったが、ゼロスの顔を見るなり彼女は首を横に振った。


「いらねーの?」

「…うん」


だって、ぜろしゅ、起きたばっかりで、なにも食べてないでしょ?だから、だいじょぶ。
そう言って両手で顔を覆い、ケーキを視界から消すことには成功したが食べたい気持ちは我慢できないようで、指の隙間からケーキをのぞき見ては揺らいでいる。

あーもーなんだ、可愛いな!

フォークを置いて手招きすれば、机の下をくぐって足元にやってきた。まるで小動物のような彼女をひょいと抱き上げ、ふにふにのほっぺたに頬ずりすると、くすぐったそうにクレアは笑う。


「俺さま、ケーキよりクレアちゃんがいいな〜」

「それじゃ、ぜろしゅのケーキ、クレアが食べるね!」

「もー!こんなときまで食い気かよ〜。俺さましょんぼり…」


ゼロスの言葉など聞く耳持たないクレアだったが、ふとなにかを思い出したらしく、ケーキを食べる手を止めた。


「クレア、ケーキすきだけど、ぜろしゅの方が、もっともっと、すきー!!」


くちいっぱいにケーキを頬張りながらクレアはまた、いししといたずらっぽく微笑んだ。
あまりにも急で、それでいて熱烈な告白にゼロスは思わず頭を抱えた。後にも先にもこんな告白二度とないだろうなあ、なんて思いながら。


20150513
thanks わんだーがーる

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