月明かりが街を照らす頃、ゼロスは屋敷の門をくぐった。裏口を目指すその足取りはしっかりしているものの、時おり歌を口ずさんだり、独り言をもらしたりと、いつもと少し様子が違う。それもそのはず。本人曰わく「学生時代の友人たち」と真っ昼間から飲み続けていたのだ。
いくら酒に強いゼロスとはいえ、長時間飲み続けていれば酔いが回るのは当然のことで。
気持ちよさそうに鼻歌を歌いながら、扉を開けた。
「お帰りなさいませ、ゼロスさま」
「おう。ただいま帰ったぜー」
脱ぎ散らかした靴を整え、ジャケットを預かると、セバスチャンは階段を上っていった。ゼロスもそれに続いてゆく。というよりは「ゼロスが歩く一歩前をセバスチャンが歩いている」
彼に今必要なのは休息だと判断しての行動だった。
セバスチャンが扉を開ければ、ゼロスは吸い込まれるように部屋に入った。
「起こすんじゃねーぞ」と一言付け加えて。
「承知致しました」
セバスチャンは柔らかく微笑んで扉を閉めた。その笑みにほんの少しいたずらっぽいものが含まれていたのだが、ゼロスは気づいていないようだ。
ネクタイを緩め、シャツのボタンをいくつか外し、ふう、と息を吐く。
出来ることならもう少しラフな格好に着替えたいところなのだが、睡魔と意識は極限にまで達しているらしい。今はもう鼻歌を歌う気力もなく、ベットへとなだれ込んだ。
「ん?」
「…?」
「あれー…?なんかクレアちゃんが見えるぞー…」
「…ん…。…ぜろ、す?」
「クレアちゃーん…」
「へ?な、なんでゼロスがここに…!」
「俺さましあわせー…」
相当酔いが回っていたのだろう。クレアを幻影だと思い込んだゼロスは、起き上がった彼女ごとベッドにダイブした。
クレアは困惑する頭でなんとか抜け出そうと試みるが、自身より重いゼロスの身体を動かすことは出来るはずもなかった。
「んにゃ…」
「…寝ちゃった」
「んー…」
「ふふっ、なんか大きな子供みたい」
クレアがゼロスの頭を撫でればゼロスは気持ちよさそうにすり寄ってきた。
相変わらずさらさらだなあ、なんて思いながら髪の毛を梳いていると、ゼロスの左手が太股を撫でた。クレアは肩をびくりと震わせ、もぞもぞと動き続けるそれを力いっぱいつねった。
「めっ」
するとゼロスは残念そうに眉尻を下げ、今度は両腕を背中に回してきた。ぎゅうっ、と抱きしめられればアルコールと煙草の匂い。
けれどクレアはそれらより、ゼロスの体温を近く感じていた。
昔の友だちに会うのって楽しいんだろうなあ。
生まれ育った地を懐古しながらクレアはゼロスの背中に両腕を回した。
アルコールの力なのか、いつもより高い体温がなんだかとても心地いい。
(…最近二人っきりでいられる時間もなかったから、たまにはこういうのもいいかもね)
ゼロスの頬にキスを落とし、まぶたを閉じた。
20131117
thanks ララドール