子供の頃はよく、空の絵を描いていた。


「クレアは本当に空が好きなのね」

「うん!だいすき!」


青一色で塗られた空と、真っ白な雲。大好きなものを大好きなひとにほめられて鼻高々な私は、お決まりの台詞を口にする。


「あのね、わたしね、おおきくなったら、まほうつかいになって、おそらをとぶの!」


絵を見た先生に「灰色を混ぜると、もっと雲らしくなるわよ」と言われた。真っ白な雲が気に入っていたから、他の色を混ぜるなんていやだったけど、先生の言った通り灰色を足してみたら、ふわふわ浮かんでいる大好きな雲に近づいた。


* * *


「空、かあ…」


あの時の絵は額縁に入れて飾ってある。けれど、大切にしていても時間が経てば劣化するのは当然のことで、青は少しずつ薄れていった。
それと同時に、雲は空気中の塵が集まったものだと、きれいなものではないのだと知った。直接触れることはできないそうだ。

がっかりした。というよりは「ああ、そうか」と、どこか納得するようだった。
そうだよね。憧れだった魔法使いになんてなれるわけがないし、空を飛ぶなんてもってのほか。
つい最近テセアラというもう一つの世界と統合されたらしいけど、ここイセリアとその近辺でのそういう技術は、まだまだ発展途中だ。


* * *


「いい場所に連れてってあげる」

「いい場所?」

「うん。きっと気に入るよ」


ゆっくり旅の土産話でもするのかと思って、お菓子とお茶を用意してきたんだけど…まあいいか。
村の門をくぐり、ジーニアスの後を着いていく。


(背…伸びたなあ…)


旅に出た頃とは比べ物にならないほど成長していて、今では私がジーニアスの顔を見上げるようになった。

ふと、ジーニアスがポケットからなにかを取り出し、高くかざした。
ぽん!という軽快な音と共に、大きな機体が目の前に現れた。空を飛ぶ鳥のように大きな羽がふたつ、左右についている。
…なに、これ?…って、それよりこの機械、今どこから出てきたの!?


「ほら、なにぼーっとしてるのさ」

「わっ…!」


ジーニアスはやすやすと私を持ち上げ、それから、にっこりと微笑んだ。
な、なにそれ。持ち上げられる必要なんてないんですけど。いつだったか「クレアってほんと、男の子みたいだよね」とか言ったくせに!

逆だったはずなのに。
いつの間にか身長も抜かされて、知らない間にたくましくなって。…なんか、ちょっとだけ寂しい…かも。


「…えっ?え、え?ええええ!?」


な、なんで泣いてるのさ!ボク、なにかした?そう言って慌てふためくジーニアスは昔と一緒で、ほっとした。そしたら、涙が止まらなくなっちゃった。
寂しいのと、嬉しいのと、その他諸々色んな感情が入り混じって自分でもよくわからない。


「えっと…こんなときは、え〜っと…」


ぽすん。

機体の椅子にあたる部分に座らされた。近くで見れば見るほど鳥に似ている。
…鳥?

頬に手を添えて、反対の手で涙を拭った。困惑顔で「泣かないで?クレアに泣かれると、ボク…どうしていいかわからなくなる」って。…な、なんか色々反則な気が…。
でも、昔のジーニアスでは絶対やらないような(なんか若干プレイボーイ臭がする)動作にびっくりして、涙は次第に引いていった。


「急に泣いちゃってごめんね」

「ううん。ボクの方こそ取り乱してごめん。…もう、大丈夫?」

「うん!」

「そっか。よかった。それじゃあ、ボクにしっかり捕まっててね」

「え?」

「あと、心の準備!」


足が、地面から離れた。いや、足だけじゃなく機体全体が…浮いてる?
私の左腕をつかんで、自身の腰に回させた。なにがなんだかよくわからないまま、ジーニアスの腰にしがみついた。
機体から発する風で草が揺れている。


「スピードは出さないから、安心して!」


夢が叶う瞬間は、すぐそこまで迫っている。
風を、鼓動を感じて、私とジーニアスは、澄み渡る青空目がけて飛び立った。


20150130
thanks 誰花

あとがきとお返事

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -