「とりっくお、あとりーと!」

「…へ?」

「お菓子ちょーだい!」


きらきらと目を輝かせ、両手のひらを器のような形にして差し出すクレア。
お菓子くれなきゃいたずらするぞ、ではなく「とりっくお、あとりーと!」と唱えることでお菓子をもらえる日、だと勘違いしているらしい。いや、あながち間違いではないのだが、トリックオアトリートの発音といいお菓子ちょーだいといい、どうしてこうも器用に間違えられるのだろうか。

ゼロスは頬を掻いて苦笑した。


「俺さま(いたずらする側だとばかり思ってたから)お菓子持ってねーのよ」

「…えっ…」


しゅん。と、被り物越しでもわかるほどに落ち込むクレア。
仮装といえば仮装の部類に入るのだろうが、いったいどこから持ってきたのかわからないかぼちゃの被り物を彼女はしていた。目と口と首のところをきれいにくり抜いてある。
共に旅をしている仲間でこんなことができるのは、ロイドかプレセアだけだろう。

ハロウィンってもっとこう…例えば、魔法使いだとかメイドだとかナースだとか、仮装している本人もそれを見ている人も盛り上がる感じだと思っていたのだが。何故、かぼちゃの被り物なのだろう(しかもそこそこの大きさである)。

いや、ハロウィンだからってのはわかるんだけど、もっと可愛いのあったでしょ!似合うのあったでしょ!クオリティ高いから余計に悔しい!


「はあ…」


魔法使い姿のクレアちゃん見たかったなあ…。メイド服なんかもきっと似合うだろうなあ…。ナースとかバニーガールとかさ。
んーでも、最後ふたつは俺さまの前だけで披露してくれたらいいっていうかなんていうか。

…やめよ。まだ真っ昼間だ。


「ゼロス…?」


クレアの大きな瞳が不安そうに揺れている。
頭ん中で仮装させて楽しんでました。なんて言えるはずもなく。ゼロスはからりと笑って誤魔化そうとした。するとクレアはぱちぱちと瞬きをして、不思議そうな顔をする。と思ったら今度はにこりと微笑んで「はい!」と、ゼロスの手のひらになにかを乗せた。


「…あめ?」

「うん。ゼロスにあげる」


それ食べて元気だして?言葉にはしなかったけれど、そう言っているような気がした。

大の男の手に乗せられた小さなあめ玉。その隣には、大きなかぼちゃの被り物をした女の子。そんなふたりが並んでいる姿はさぞ滑稽だろう。
でも、案外居心地は悪くない。

心のどこかでそう思う自分がいることに、ゼロスはまた、苦笑した。


20141031
thanks otogiunion

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