俺さまの髪を、真っ赤に燃える太陽のようだと誰かが言った。
「太陽…か」
音にしてみる。つくづく自分には相応しくない言葉だとゼロスは思う。自然に恵みを、人々にあたたかさをもたらすだなんて。柄にもないし、そんな存在になれる訳がない。
「太陽」って言葉が相応しいのは、俺さまなんかじゃなく――。
* * *「月、きれいだねぇ」
ミズホの里で一泊することになったクレアたちは、食事を終え、それぞれ自由な時間を過ごしていた。武器の手入れをしたり、読書をしたり、夜空を見上げたり。世界再生の旅の途中、つかの間の休息だ。
クレアは、しいなお手製の「団子」というまんまるなものを頬張っていた。時おり月とそれを重ね合わせて、楽しそうに笑っている。
「そーかぁ?」
確かに、今夜は満月だ。いつもは黄色い月がなんだか橙色に見えるし、昨日より明るい気がする。
けれど時どき雲がかかって、その明るさを隠しているようにも見えた。
「…うん。きれいだよ」
にっこり笑って、クレアは言う。
「月のひかりって、ぼんやりしているように見えるけどね、星と一緒に暗闇を照らしてくれるし、それに、あたたかくて優しくて、私は…すきだなぁ」
まんまるな瞳を細めて、心底嬉しそうに微笑むクレア。
月は太陽の代わりにはなれないし、人々にあたたかさを与えられる存在にもなれないけれど、こうして、すきだと言って笑ってくれる。
…クレアちゃんやロイドくんたちと一緒にいたせいか、随分感化されちまったみたい。
「…そっか」
「うん!」
一生敵わないんだろうなあと思いながら空を仰ぐと、そこには確かに、暗闇を照らすやわらかなひかりがあった。
触れた肩から伝わる体温が、とても心地いい。
20140909
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otogiunion