昔からそうだった。のめりこむと抜け出せないタイプだって自負していたけれど、いくつになっても成長しない自分がちょっとだけ嫌になる。

そんな私が今はまっていることは、夜中にこっそりお菓子を食べること。身体によくないとわかっているはずなのに、誰かに見つかるんじゃないかという緊張感とか背徳感を覚えてしまい、やめられずにいるのだった。
きっかけは、ある日小腹が空いて寝付けなかったから荷物の中のビスケットを食べた。それだけ。

左手にはメルトキオの露店で購入したチョコレート。甘すぎないミルク味が特徴的で、子供の頃よく親にねだったものだ。
一枚だけなら大丈夫、そう言い聞かせてチョコレートを口元に運んだ。


「なーにやってんの」

「へ?」


ぱちぱち。ごしごし。
ぱちぱち。ごしごし。
見間違いかと思って何度も目をこすってみたものの、鮮やかな真紅は消えなかった。


「ゼロス!?」

「どーもー」

「っど、どーもー」


乾いた笑いを浮かべてチョコレートを背に隠した。確かに見られたくないものではあるけれど、隠す必要があるものではないはずだ。

なんとか誤魔化そうと試みたものの、ゼロスの洞察力に敵うはずもなく。なに隠してんの?なんてにやにやしながらこっちに迫ってきた。
チョコレートを隠しながら後ずさっていたけれど、いつの間にか壁際まで追いやられてしまった。顔の横に手をつかれ逃げ場をなくす。

この時初めてエクスフィアによって高められた反射神経を憎んだのだった。


「ねぇ、なに隠してんの?」

「な、にも隠してなんかないけど」

「ふーん」

「ちょ、近……」

「教えてくれないんなら〜、このままちゅーしちゃおっかな〜?」

「!?」


いきなりなにを言い出すんだこの男は。いや、これでも一応私とゼロスは恋人同士というかなんというかな関係だからそういうことがあってもおかしくはないんだけど。なんていうかその、心臓がもたないっていうか…。近くにいたいけど、近くにいるとドキドキして、ばくばくするんですよ。
されてなるものかと顔を背けたら、一気に距離を縮められた。そこで驚いて振り向いたのが運の尽き。
目の前には綺麗な蒼色。

まずい近い肌白いすごーいまつげ長い!ってそうじゃなくて!


「こ、これ!チョコレート!!」


差し出したチョコレートは包みがぐしゃぐしゃになっていた。チョコレートを受け取ったゼロスは包みを解き、高く放り投げ、ぱくり。と、一口。

……え?


「知ってっか?女の子は、甘えたい時に甘いものが食べたくなるんだってよ」

「はい?」

「最近二人っきりになれてなかったしな〜」

「あ、あのう…」

「心配無用!」

「そうじゃなくって」

「チョコレート以上に俺さまが甘えさせてやっから」


耳元で甘く囁かれ、にっこりと笑われてしまえばもう成す術はなかった。私に拒否権はないらしい。
遂に、食べる番じゃなくて食べられる番になってしまったのか。頭の片隅でそんなことを考えながら、ゼロスのキスを受け入れていた。口内に広がるミルクチョコレートの味。

なによ、結局キスするんじゃない。


20140602
thanks otogiunion

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