さくさく。ぎゅっぎゅっ。しゃくしゃく。
履いている靴が違うから、雪の音も違う。
踏みならされた雪はかたく、土と混じって茶色くなっている箇所もある。
樹にも花にもつもっていて、白のすきまから緑や赤、黄や青、さまざまな色がのぞいていた。
視線を落とせば、誰かの足跡。
大きいのはお母さんで、小さいのはきっと男の子。大きい足跡は等間隔なのに、小さい足跡はいろんな方向についていた。
いつもと違う景色。
けれど、違うのは景色だけではなかった。
「さっみー!!なあ、クレアちゃん」
「うん。寒いね」
「ったくよー、いくら物資が足りないからってこのタイミングはねぇよなあ…。これじゃ凍えちまうっつーの。…ま、クレアちゃんとふたりっきりになれたのはラッキーだけど!でひゃひゃひゃ!」
ゼロスはあいている方の手でクレアの手を取り、前を行く。
…違う。
クレアがそう思ったのは、その時だった。
なにが違うのかはわからなかったけれど、なにかが「違う」
「ゼロス…?」
「ん?どーしたのよ」
いつもと同じ明るい声でゼロスは言った。けれど、その背中はなんだかとても儚くて。
目深に被ったフードから、燃えるような紅がこぼれ落ちた。
「…葉っぱ」
「…?」
「葉っぱも枝も樹も花も、きっと大変だね」
「大変?」
「こんなにたくさん雪が降ったら、寒そうだなあって」
「………」
「もしかしたら、雪景色をきれいだって思うのは私たち人間だけなのかもしれないね」
「…。そうかもな…」
均等に並べられたレンガにつもった雪は、一か所だけ欠けていた。
降りつもる雪の重みに耐えきれなかったのか、はたまた鳥が羽休めしたからなのか。もしかしたら、子供が触ったからなのかもしれない。
繋がれていたはずの手は、いつの間にか離れていた。
手のひらが急速に冷えていく。そんな気がした。
「…えいっ!」
少しの助走をつけて、ゼロスの腕に抱きついた。
反対側の手で持っていた袋ががさりと大きな音を立てる。
突然のことに戸惑うゼロスだったが、当のクレアはまったく気にしていないようで、耳や頬を赤く染めながらずんずんと歩き始めた。
「寒いね〜」
はやく帰ってあたたまろ?今日の晩ご飯はなんだろね。私は、あたたかいスープがいいなあ…。ゼロスはなにがいい?
そう言ってクレアは笑った。変な話しちゃってごめんね。そう言っているようにも見えた。
足の先から頭の先まで冷え切っていたはずなのに、不思議と、繋がれた腕だけはほんのりとあたたかかった。
20140211
世界は確かに色付いたさま提出作品。