ちかちかと星が瞬いて、夜空を彩る。
「やっぱり、シルヴァラントとは違うの?」
「ううん。一緒だよ」
ミトスの問いにクレアは答える。
文化や街並みこそ違うけれど、空は同じ。昼間も夜も変わらない。でも、家々から漏れる灯りが少ない分、シルヴァラントの方がはっきりと見えるかもしれない。
「…テセアラは、明るいもんね」
そう言ったミトスの横顔が少しだけ寂しげだったは、月明りのせいなのだろうか。
クレアは膝にかけていた毛布をミトスにかけ、ふわりと微笑んだ。
「私、お家から漏れる灯りもすきだよ」
月や星の輝きには到底及ばないかもしれないけど、あたたかくてやわらかくて、なんだかほっとするでしょ?
例えるなら…家族とか、友達のようなあたたかさ、かな。
「おかえり」って言ってくれてるみたいで嬉しくなっちゃうの。
(…家族とか友達、か…)
毛布を握る手に力がこもる。
ふと、背後から足音が聞こえた。モンスターかと思い身構えるが、クレアの嬉しそうな、かつ間延びした声で、それが敵ではないことを悟る。
「ふたりとも、おまたせ」
「ジーニアス…?」
「どうしたのミトス、そんな驚いた顔して……あっ」
「?」
「さてはクレア、ボクが来るってこと伝え忘れてたでしょ」
「えへへ…ごめんね」
「もー…。まあいいや。はい、ボクからの差し入れ」
「ありがと〜」
受け取ったマグカップを手のひらで包みこむと、ゆっくり、じんわり、あたたかさが広がった。
緩みきったクレアの表情を一瞥し、ジーニアスは苦笑する。もう、相変わらずだなあ。なんて言いながら。
「はい、ミトスはこっち。あたたまるよ」
「これは…」
「ホットミルク。ほんとはクッキーも焼いたんだけど、ロイドがぜんぶ食べちゃったから持ってこられなかったんだ」
「ロイドさん…食いしん坊なんだね」
「『育ち盛りなんだからちょっとぐらいいいだろ!』ってうるさくて」
駄々をこねるロイドの姿が思い浮かんだのか、ミトスはくすりと笑った。
ぽつん。家の灯りがひとつ、消えた。
「旅に出る前は、四人でよく星を眺めたんだよ」
「ロイドの家から見える星空がすっごくきれいでさ…!『星が降ってくる』ってこういうことなんだって、ボク初めて実感したよ」
「星が…降ってくる…」
「ほんときれいだったなあ…。でも、残念なことにね、ロイドだけその光景が見られなかったの」
「ロイドさん…だけ?」
「うん。いっぱい欠伸してるなあって思ったら、いつの間にか寝ちゃったみたい」
「…ほんと、お子ちゃまなんだから」
肩をすくめるジーニアスに、目を細めて当時の様子を語るクレア。
コレットとね、お願い事をしたんだよ。そう言って、嬉しそうに微笑んだ。
「いいな…」
消え入りそうな声でミトスは言った。
ぽつり。またひとつ、家の灯りが消えた。
ぽつり。またひとつ。
一軒、二軒、三軒と、次々に灯りが消えてゆく。
ぼんやりとにじんで、あたたかさが消えてゆく。
「ボクは…」
落とした視線の先には、枯れ果てた花。どんな色の花弁をつけついたのだろう。強く、たくましく咲き誇っていたのは、どれぐらい前のことなんだろう。
『わあっ…!』
眩い光と、感嘆の声。
ミトスが空を見上げれば、たくさんの星が降ってきた。
「……!」
そうだ。昔はよくこうして、四人で――。
毛布から伝わるあたたかさ。ホットミルクから伝わるあたたかさ。誰かと一緒に過ごす喜び。楽しさ。ぬくもり。
忘れてはいけない、大切なもの。
瞬きをひとつし、ミトスは静かに微笑んだ。
枯れ果てた花の隣には、新しい命が誕生している。彼がそれに気づくのは、もうちょっと先のお話。
20131203
thanks
誰花あとがきとお返事