陽射しが和らいで、風が冷たくなる。まだまだ日中は暑いけれど、肌を灼くような感覚はなくなった。
この時期になると「嬉しいこと」がひとつ増える。

それはね──。


「なあ、クレア」

「なあに?ロイド」

「今日は、ちょっとだけ寄り道して帰ろうぜ」

「?うん、いいよ」


授業後、ロイドとダイクさんと庭の手入れをするのが私の日課になっている。

「お墓に供えるお花だけじゃ、きっと寂しいから」昔、ロイドがそう言ったらしい。その数日後、ダイクさんの手によって立派な花壇が完成した。…まではよかったのだが、二人は「花を育てる」という知識に疎かった。
そこで、花屋を営んでいる私に白羽の矢が立ったのだ。…とは言っても、店を経営しているのはパパとママで、私はそのお手伝いをしているだけなんだけど。


「よーし!じゃあ、俺についてこい!」

「…へ?」

「早くしないと置いてくぜー!」

「え、ええええっ!?」


門をくぐるなりまさかの全力疾走。なにが起こったのかよくわからなくて、私はその場に立ち尽くす。
さやさや。心地よい風が髪をさらった。
その間にも、ロイドの姿はどんどん小さくなっていく。

う、うそでしょ…?せっかくコレットに髪の毛結んでもらったのに、これじゃあぼさぼさになっちゃうよ。
気づいてもらえるかなって、誉めてもらえるかなってほんのり期待してけど、肝心のロイドはもはや遙か彼方に。
…迷っている暇はないらしい。

走りやすいように、スカートの裾をきつく結んだ。お気に入りのワンピースだけど、しわになるけど、今だけは気にしないことにする。

大地を蹴って、駆け出した。


* * *


「つ、疲れた…」


走った。とにかく走った。消化したとばかり思っていたお昼ご飯が、お腹の中でぐるぐる回っている。ううっ…。
予想通り髪の毛は乱れ、靴底には木の実と葉っぱが、お気に入りのワンピースには泥がはねてしまっていた。気にしないつもりだったけど、帰ったらママになんて言われるか…。

乱れた呼吸を整えようと、顔を上げた。


「……!」

「な?走った甲斐があっただろ」


青。桃。橙。グラデーションの夕焼け空が広がっていた。薄い雲がかかっていて、淡く、儚く、神秘的。
この景色を「きれい」としか表現できない自分の語彙力をちょっとだけ疎ましく思うけれど、やっぱり「きれい」そのものだった。


「昨日見つけたんだけど、どうしてもクレアに見せたくてさ」


この時期になると増える「嬉しいこと」
それは、寄せ合った肩から伝わる体温がとても心地よく、愛しいと気づくこと。


「ねえ、ロイド」

「ん?」

「しばらくこのままでも…いい?」


夕焼けは一瞬で夜空に変わってしまった。けれどそれを寂しいとは思わない。だって今、隣にはあなたがいるから。
照れくさそうに微笑むロイドに、私の頬はふにゃりと緩み、赤く染まった。

マイペースな私たちには、この距離がちょうどいいのかもしれないね。


20130927
thanks はこ

あとがきとお返事

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