閃光。轟音。真っ暗な部屋が白に染まった。
カーテンを締め切っているはずなのに、薄い窓ではないはずなのに、絶えず轟く雷鳴。バリバリという音がしたと思ったら、その数秒後には光の亀裂が夜空に出現する。
大きな音と光に怯え眠れなくなってしまったクレアは、雨雲が通り過ぎるのを待っていた。ベッドの上で膝を抱え、頭からシーツを被る。

けれど、上級魔法のインディグネイションを優に上回る自然の力は、威力を緩めることなく大地を襲った。


「ううっ…」


どうしてこういう時に限って一人部屋なのだろう。大部屋だったら誰かと寄り添って恐怖を半減できたのに。
特別雷が苦手なわけではないけれど、今夜のそれは苦手とか苦手じゃないとか、そういうものを超越して、恐怖のみを植え付ける。

ここから近いリフィルかプレセアの部屋に行けば万事解決するのかもしれないが、夜はすっかり更けている。例え彼女たちが同じ状況で起きていたとしても、気が引けてしまう。


「ど、どうしよう…」


悩んでいる間にも音はどんどん大きくなっている。雨雲と共に雷が近づいてきているのだ。

…よし、今度先生のお手伝いをするから、雷がおさまるまで一緒にいてもらおう。

そう思ってシーツを剥ぎ取った瞬間、夜空に大きな亀裂が走った。雷鳴と閃光が大地を揺らす。


「…!!」


下唇をきつく噛んだお陰で悲鳴をあげずには済んだものの、我慢の限界に到達してしまったようで。目の縁に透明な雫が溜まってゆく。
頬を伝い、ベッドの上にこぼれて小さな染みをつくった。
ひとつ、ふたつ、みっつめの染みをつくった時、頭の上になにかが乗せられた。

ぽん、ぽん、ぽん。優しく頭を撫でてくれている。
顔を上げると、暗闇でもはっきりとわかる紅色が視界一杯に飛び込んできた。


「ゼロ、ス…?」


ゼロスはなにも言わなかったけれど、代わりににこりと微笑んだ。柔らかい笑みに心が安堵する。と、我慢していたものが堰を切って溢れ出してしまった。
恐怖。涙。嗚咽。言葉。

気付いたらゼロスにすがりついて、胸を借りて泣いてしまっていた。
頭を撫でていた手は背中に回され、ぎゅっ、と抱きしめられる。雨の音よりも雷の音よりもゼロスの鼓動が近くに聞こえた。

それでも涙は止まらず、次から次へと溢れてくる。ゼロスは少しだけ困ったような顔で、泣きじゃくるクレアの背中をさすった。


* * *


泣き疲れて眠ってしまったクレアを横たわらせ、カーテンをまとめて窓を開ける。雨上がりの空気は少し湿っていたけれど、葉の上にこぼれた雫はきらきら輝き、太陽は赤々と燃えていた。

「きれいだね」ヘッドで眠る彼女なら、なんのためらいもなくそう言うのだろう。
羨ましくも、少しだけ疎ましくも感じるクレアの純粋さ。
だからゼロスは、あえて言葉に出さなかった。


「俺さまもそろそろ寝るとすっかなー」


いつまで寝ているんだ、と仲間達にどやされそうだが、そこはクレアに庇ってもらうとして。
欠伸をしながらドアノブに手をかけ、そこでふと思い立つ。


「役得、な」


クレアの髪をかき分け、薄く開いた唇に自身のそれを重ねた。


20130906
thanks わんだーがーる

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