ロイドはその日、頭を悩ませていた。

養父から聞いたところによれば、今日はコレットの誕生日らしい。日頃から仲良くし、毎日のように遊んでいる彼女には、何かをあげたいと思う。
しかし、何をあげれば良いのか全く思いつかなかった。

しばらく家でぐるぐると考えていたものの、考えつかないため、外に出ることにした。

外は晴れていて、気持ちのよい青空が広がっている。そういえば、とロイドは去年のコレットの誕生日を思い出した。あまり覚えていないものの、村全体でお祝いをしてはいなかっただろうか。
プレゼントはまた後で考えることにして、ノイシュに乗って、イセリアに行くことにした。


村の入口は綺麗に飾り付けされていた。門近くに人気はないものの、広場の方から楽しげな声が聞こえてくる。そういえば、とロイドは思う。


「コレット、今日が誕生日だって言わなかったな…」


ダイクから聞かされなければ、コレットの誕生日だと気づかなかった。どうしてたろう? と思ったものの、まだ幼いロイドはその違和感についてあまり深く考えることなく、広場の方に歩いていった。

すれ違う大人は皆笑っていた。いつもならロイドを見て複雑な顔をする大人も、今日は笑顔で話しかけてくれる。


「再生の神子さまももう6歳…。あと10年で、世界再生の旅に出るのね…」
「今度の神子さまはきっと成功させてくださるわ。とても楽しみね」
「あんなに強くて立派ですもの…」


そう聞こえてきた会話を、ロイドはまだ完全に理解することはできない。しかし、コレットが“さいせいのみこ”で、16歳で“せかいさいせいのたび”に出ることは知っていた。
しかしロイドにとってコレットは転びやすくちょっと天然な女の子であり、“みこ”であることなどを、あまり考えてはいないのだった。


そうこうするうちに、広場に到着する。広場は料理などが並べられていて、たくさんの大人や子供が談笑していた。ロイドはその中から自分と同年代の子供を見つけると、話に混ざった。

その話によれば、コレットは“だいせいどう”にて儀式を行い、もう少しで戻ってくるらしい。コレットが戻ってくるまで料理を食べることはできないのだろう、お腹が空いたのかちらちらと料理を見ている。ロイドも自分の空腹を自覚しながらコレットを待った。

10分ほど経過したとき、コレットがファイドラに連れられてやってきた。表情は固く、神衣の裾をぎゅっと掴んでいるのが見える。そんな孫にファイドラ優しく笑う。


「コレット、今日はコレットのためにみんなが準備をしてくれたよ。主役がそんな顔をしてどうする」


儀式は終わったのだから、とファイドラが優しく言えば、コレットはようやく微笑んだ。


「えっと、今日は…わたしのために、ありがとうございました!」


コレットが頭を下げると、温かな拍手が起こる。それと同時に宴が始まった。それを見ていたロイドは、コレットの髪に花飾りがついていることに気づいた。


「そっか!」


突然大声を上げたロイドに友達が驚くが、彼は挨拶もそこそこにその場をあとにした。





◇ ◆ ◇




日は過ぎ、夕暮れに近づく。宴もたけなわになってきた頃、コレットはフランクの服の裾をつかんで目をこすっていた。今日は緊張したし、朝早くから起きていたためか眠い。


「帰るかい、コレット」
「帰りたい…。眠いの…」


ファイドラとフランクは目をあわせてうなずいた。フランクはかがんでコレットに目線を合わせると、口を開いた。


「帰ろうか。後は大丈夫だよ」
「はい…」


夕焼けに照らされた道を、父娘二人が話しながら帰る姿は心休まる光景だ。コレットはフランクの本当の子供ではないと言われていても、それは変わらない。コレットも、父親との二人の時間を楽しんでいた。

家に近づいたとき、扉の前に立つ小さな人影を二人はみとめた。


「…ロイドくんかい?」
「え? ロイド?」

「へへ…。コレット、渡したいものあるんだけど、いいか?」
「うん、いいよ!」


先程眠たげな表情をしていたのはどこへやら、一転してはつらつとした表情になったコレットに、フランクは苦笑した。


「コレット、先に中に入るよ」
「あ、はい!」


一応こっちを見て返事はしたものの、コレットの頭の中はすでにロイドのことで一杯なのだろう。今日初めて見せた年相応の笑顔に、フランクは暖かい気持ちになりながら家に入った。


ロイドと向かい合ったコレットは、彼が手を後ろに回していることに気づいた。何だろ? と首をかしげていると、ロイドが徐に手を前に持ってくる。ぽすんという音とともに、頭に重みがのっかる。
それを、手にとって顔の前に持ってくれば、それは花輪だった。

少し歪な、しかし全体的には綺麗に整った白い花の花輪に、コレットの目がきらきらと輝く。


「誕生日おめでとう、コレット!」
「わたしに、いいの?」
「なにいってんだよ、コレットのために作ったんだから!」

「ありがとう、ロイド…。とっても嬉しい!」


コレットは満面の笑みを浮かべる。

彼女にとって、誕生日は自分の命が終わるまでのカウントダウンだ。幼いながらにそれをわかっている彼女は、積極的に友達を作ろうとはしなかったし、嬉しいはずの誕生日も、複雑な気持ちになりながらむかえていた。
しかし、今は純粋に嬉しい。ロイドがプレゼントをくれたこと、自分のことを気にかけてくれていたことが……。

コレットは、花輪を握りしめ、こうロイドに聞いた。


「ねえ、ロイド…、来年も、これからもずっと、仲良くしてくれる?」
「当たり前だろ? この先もずっとともだちだ!」
「うん! 約束…ね?」


元気よく頷いたロイドに、コレットは胸の前で手を組んで笑った。



それから10年後、この2人が世界を救うことになるのだとは、夢にも思わず。
花輪に使われた花の花言葉を知って、仲間にからかわれることになるのだが……。
それは、また別のお話……。

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