「あのね、ロイド」
「ん?どうしたんだよ、クレア」
「お願いがあるの」
そう言ってクレアが差し出したのはブラシと髪留めだった。どちらもロイドの父ダイクに作ってもらったもので、可愛らしい花の模様が施されている。
「ロイドが自分のために頼んで作ってくれた」ブラシと髪留めを、クレアは肌身離さず持ち歩いていた。彼女がそれを大層気に入ってくれていることは知っていたし、休み時間にコレットたちと髪を結って遊んでいる姿をしばしば目撃していた。
しかし、クレアは今回コレットたち女の子ではなく、ロイドに髪を結ってもらいたいと言うのだ。
ロイドが器用であることはクラス中の誰もが知っている。けれど、ダイクと二人暮らしの彼に女の子の髪を結う機会なんてあっただろうか。
「どうして俺なんだ?」
「えっと…きょ、今日はそういう気分なの!」
「ふーん…。俺、コレットみたいに綺麗にできるかわかんねぇけど」
「う、ううん!ロイドならきっと大丈夫だよ!」
「そ…そうか?」
「うん!」
嬉しそうに笑うクレアにつられてロイドもにっこり微笑んだ。
真っ赤なグローブを外し、腕まくりをしてブラシと髪留めを受け取る。そして「よーし!俺に任せとけ!」と意気込みながらクレアの髪にブラシを通した。
腰まである髪を一本一本丁寧に梳かしてゆくと、自身のそれとは違う柔らかな感触に少し、戸惑いを覚えた。柔らかくて、さらさらしていて、なんだかいい香りがする。
「なあ」
「っ!」
「?」
「…な、なあに?ロイド」
「なんか…いつもと違うような気が…」
言いながらロイドは梳かし終えたクレアの髪を結いあげてゆく。高い位置で結わえられたそれは器用にまとめられていて、変な膨らみや後れ毛のひとつも見当たらなかった。
途中ロイドの指が首筋に触れる度、小さく肩を揺らすクレアだったが、どうやらロイド本人は彼女の異変に気づいていないようだった。
安堵する反面、寂しい気持ちがクレアの胸中を駆け巡る。
そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、髪留めを手にしたロイドは「わかった!」と嬉しそうに言った。
「花みたいな匂いがするんだよ」
「…あ、あのね!昨日、シャンプーを変えてみたの。へ、変かな…?」
「いや。俺、このにおい好きだぜ!」
「ほ、ほんと…?」
「ああ!」
「えへへ…。ありがとう、ロイド!」
20130416
thanks
はこ