いつか誰かが言っていた気がする。寒くなると人肌恋しくなる、と。
誰の言葉だったかな?ぼんやりした思考で記憶をたどっていたら、鬱陶しいぐらいににやけているゼロスと視線がかちあった。一応ゼロスとは長い付き合いだから、言葉を交わさなくてもなんとなくわかる。どうやら彼は私のこの姿が嬉しいらしい。
薄々気付いてはいたけどこの男、やっぱり変態だ。
「だって初めてなんだもんよ〜」
「なにが」
「クレアちゃんが寝込んでる姿見るの。風邪引いた時も怪我した時も、俺さまの見舞いだけは絶対断ってた」
「そんなこといちいち覚えてるなんて女々しいわね」
「なんとでも」
そう言ってゼロスはにやりと笑った。自分が格好いいってわかっているからこその笑み。自信に溢れていて、格好よくて、綺麗で、少しだけ儚くて。
でも、最近のゼロスはなにかが変わった気がする。なにがって言われると困るんだけど、表情とか所作とかに刺々しさがなくなったっていうか…。うーん…。刺々しさって言うとちょっと違うかな。でもなんか「丸くなってる」の。
きっと、ゼロスにとっていい変化なんじゃないかな。なんて考えていたら今度は真剣な蒼色と視線がかち合った。
「…なに見てんのよ」
「いや〜、たまにはこういうクレアちゃんもいいなと思って」
「…バカ」
何故よりによってこの男なのだ。いつものようにふらふら出かけてくれればよかったのに。
それと、病人の髪を梳く必要性がどこにあるというのだろう。ゼロスはベッドに頬杖をついて、ただただ私の髪を梳いていた。
「なあ」
「なに」
「薬は?」
「飲んだ」
「…ちぇっ、つまんねーの」
「………」
「………」
「ねぇ」
「あ?」
「することないなら部屋に帰れば?」
「んー…。そうだなぁ…」
どうやら帰るつもりはないらしい。
適当な受け答え、起こす様子のない腰、休むことなく髪を梳き続ける右手がそれを物語っていた。
「なあ」
「なに」
「絵本でも読んでやろうか」
「いくつだと思ってんのよ」
「22」
「あんたじゃなくて私が!」
ああもうこれじゃあ安静にするどころか心拍数上がりそう…。
心の中で呟いて、真っ白なシーツに顔を埋めたのだった。
20130320
thanks
はこ