次の日、少し早めに目覚めたクレアは、朝の空気を吸おうと外に出た。

玄関に出たところで、何やら白い紙が落ちているのを見つける。紙、否封筒には“クレアさま”と書かれていた。


「…何、かな?」


筆跡に見覚えは、ない。あるような気もするが、どこで見たのかは思い出せない。
封筒を開けると、便箋が1枚入っていた。


《クレアさま 誕生日おめでとうございます。誕生日祝いを盛大にお祝いさせて頂きたいと思っております。
もう少ししましたら迎えが来ますので、今しばらくお待ちください》


そう短く書かれてあるだけの文面。しかし、クレアを驚愕させるのには充分だった。そこに書かれていることを理解するのに、頭が追いつかない。

何回も読み返し、ようやく理解が追いついた頃には、随分と時間がたっていた。


「一体、誰がこんな手紙を…?」


考えてはみるものの、手紙に書かれた文字の癖から推測するのは難しい。かといって、他にこんなことをするような知り合いは――。

そこまで考えたクレアは、ふと脳裏に浮かんだ考えを打ち消した。


「合ってるかもしれないけど…。その時が来たらでいいよね?」


手紙には迎えが来る、とあるのだ。その時になればわかるだろう、とクレアは深く考えるのをやめ、家に戻った。

それなりに時間がたっていて、居間に行くとフランクとファイドラはもう起きていた。


「クレア、おはよう」
「おはようございます」
「どこかに行っていたのかい?」
「…はい。少し早めに起きてしまったので、外の空気を吸いに…」

「そう。…さあ、朝食にしようかの」


ファイドラに促され、クレアは朝食の準備を手伝い始めたのだった。




◇ ◆ ◇



数時間後、のんびり過ごしていたクレアの元に来客があった。
応対に出たフランクが、クレアを呼ぶ。


「私、ですか?」
「そうだよ。行ってみなさい」


手紙にあった“迎え”だろうか、と内心思いつつ、クレアは玄関に向かった。

果たして誰が――。


「よ!クレアちゃん、昨日ぶりか?」
「……え、ゼロス?」
「何でそんな驚いた顔してんだよ?俺さまがここにいるってのが信じられない?」

「…信じられないって…。ゼロスが、迎え?」
「迎え?何の話だよ」

「え?…どうしてゼロスがここにいるの?」


混乱するクレアに、ゼロスは自らの事情を話し始めた。
朝起きたら枕元に手紙が置いてあったらしく、クレアを迎えに行くように指示があったらしい。

これがそうだ、と手紙を渡してきたゼロスに、クレアも手紙を渡す。

確かに同じような文字で、ゼロスが言った旨のことが書かれていた。


「…クレアちゃん、紙入ってるぜ?」
「紙…?え?全然気づかなかった」
「まあ、小さい紙だしな」


ゼロスが指で挟んでいる紙には、学校と書かれている。

クレアは気づかなかったことに苦笑いをしながら、ゼロスからそれを受け取った。


「学校…としか書いてないね?」
「とすれば、学校に向かうしかねえよな?」
「…そだね。行ってみよう?」


クレアが外に出ようとした瞬間、ふわりと体が浮く感覚がする。ゼロスが自分を引き寄せたのだ、と理解した時には、彼の腕の中に収まっていて。

彼女は、顔を真っ赤にする。

ゼロスはくすくすと笑いながら、そっと彼女の耳に唇を寄せた。


「お誕生日おめでと、クレアちゃん。とびっきりのプレゼント用意してやるから待ってろよ」

「っ……」


睦言のように囁かれたその言葉は、壮大な威力をもっていた。

動けないクレアの頭上では、尚も笑い続けるゼロス。クレアは状況についていけずただ顔を真っ赤にするのだった。


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