水が流れ花が咲き、視界いっぱいに緑が映る。気持ちいい風が頬を撫で、目覚めたばかりの身体を起こすように、伸びをしながら景色を楽しむ。
ふわふわ。ぽかぽか。
あったかいなぁ…。
「あれ…?」
しいなが言っていた「サクラ」という花が舞う中心にゼロスがいた。薄桃色の花びらが、くるくると取り囲む。
「…きれい…」
どうやら声に出してしまっていたようで、それに気づいたゼロスがへらりと笑った。クレアは恥ずかしさのあまり思いっきり目を逸らしてしまったが、ゼロスは構わず「こっちこっち〜」と手招きしている。
意識よりも先に身体が勝手に動いていた。ゼロスの元へ、クレアは駆け出す。
――ふわり。
足元で魔法陣が瞬いて、そこから出現した優しい風が薄桃色の花びらを舞い上げた。
くるくる。ふわふわ。
光に照らされて輝くそれは、まるで宝石のよう。
(わあっ…!)
「綺麗」や「美しい」では物足りない。けれど、そう形容するしか出来ないほどその景色は美しく、綺麗だった。
花びらを舞い上げている風がやむと、ゼロスは「でひゃひゃ!」と笑いながら、クレアの頭に手を置いた。
「ど〜よ!なかなかのもんだったろ?」
「………」
「…あの…聞いてる?」
「…うんっ!すっごくすっごく綺麗だったよ!ありがとう、ゼロス」
「…ど、ういたしまして」
「?どしたの、ゼロス」
「クレアちゃんに喜んでもらえてよかった〜!と思って」
「えへへ…本当にありがとう!」
「いってことよ〜…って、え?クレアちゃん?」
「こっちこっち!」
今度はクレアがゼロスの腕を引いて走り出した。ひらひらと舞い散る薄桃色が腕に、頭に、肩に降り積もる。時たま視界を覆ったけれど、クレアはそれすら楽しんでいる様子だった。
静かに流れる小川の前で止まり、サクラの花びらをかき集め始めた。
「見ててね」と水面を指差し、ゼロスが視線をやったその瞬間。両腕いっぱいに抱えていた花びらがふわりと宙を舞った。
――ぱしゃん。
控えめな音がゼロスの耳に届いた。
サクラの花びらが、光を反射しながらゆっくりと流れてゆく。
「…どう?」
にこりと微笑んで顔を覗き込むクレアに、ゼロスは優しく、柔らかく微笑み返した。
平凡は幸せからできてるのよ
(…ありがとな、クレアちゃん)
(ううん、私の方こそありがとう!)
2012.04.21.
thanks:
わんだーがーる