「クレアー!」

「げっ…!」

「あいやー!顔を歪めるほど私のことを愛しているのだな。大歓喜!」

「ち、ちげーよ!そんなんじゃ…」


シャンプーに捕われた左腕を力一杯振ってみるものの、さすがは女傑族最強の女の子。ちょっとやそっとのことでは動じない。いや、動じないなのはシャンプーの性格がああだからか。
真っ直ぐでひたむきで、思い込んだら一直線。

うーん…。大人しくしていれば普通の可愛い女の子なんだけどなぁ…。
毎朝毎朝これだとさすがに堪えるっていうかなんていうか。


「我的愛人…」

「だー!くっつくなっつってんだろ!離れろ!」

「嫌ある」

「なっ…」

「クレア、本当は喜んでるね。嫌々言うのはただの照れ隠し」

「そ、そんな訳…」


ない。

そう言うはずだったのに。言ったはずだったのに。その二文字はなかなか口から出てこない。
なんでだよ。どうして出てこねぇんだよ。言え。言うんだ。そうしたら、シャンプーも少しは距離を置いてくれるかもしれない。こんなふうに毎朝毎朝抱き着かれることはなくなるだろう。


(…あれ)


シャンプーと出会う前の学園生活を思い出してみた。朝起きて、友達と談笑しながら学校へ向かう。頬杖をつきながら授業を受けて、昼休みになれば食堂へ走った。
午後の授業を終えたら青春の代名詞(だと個人的に思っている)部活動。ウォーミングアップから基礎トレーニング、汗を流して試合して。気づけば夕暮れ時。試合のことを話しながら家路へつく。

楽しかった。けど、今ほど刺激的ではなかった…かもしれない。


「クレア、顔真っ赤ね。私のこと考えてたか?」

「…そう…かもね」


するとシャンプーは大きな瞳をぱちぱちと瞬かせ、それから真っ直ぐ俺を見る。
にっこりと、花のように彼女は笑った。


「…クレア、大好き!」




(だけど)
(そんな些細な反抗も、彼女の前では意味をなさなかった)


2012.04.11. 


thanks:carol

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